建設コンサルタントの在宅勤務の将来について
新型コロナ以降で、当社の人材登録者の中で、現役レベル世代30代、40代の登録者が急激に減少した感じがしています。
一方、ベテランクラスの年代の転職の動きは、変化がありません。
現在、建設コンサルタント業界の景気は悪くないこともあり企業側の採用意欲は旺盛です。
建設コンサルタント業界が不況でないにも関わらず、現役世代のみで転職希望者が減少した理由として、社会全体の不景気感、社会不安に引きずられて、「こんな時に転職なんてやめて」的な家族の反対により転職を思いとどまっている人が多いということはあると思います。
ただ、現役世代の転職者が減少した一番の大きな要因は、建設コンサルタント業界に在宅勤務が急速に普及したことにあるような気がしています。
以下に、在宅勤務による転職への影響や、将来の動向について考察します。
在宅勤務普及により現役世代の転職者が減少した理由
なぜ、在宅勤務が普及すると、現役世代の転職が減るのかといえば
第一の理由は、仕事が楽になったということです。
といっても仕事量(売上・受注)が減少したわけではありません。
まず、通勤時間が無くなりました。片道1時間であれば、毎日2時間の自由時間を増えます。
さらに、無駄なお付き合い残業や、仕事を投入されないために忙しいふりをしなくてもよくなりました。
参考コラム:「建設コンサルタント激務の実態」
業務を一番合理的なやり方で上手く回そうという意識が、社内全体に初めて芽生えたとも言えます。
また、管理職では、無駄な会議や間接業務が減少したこともあるでしょう。
家族と過ごす時間が大幅に増えたこともあり、生活充実度も上がり、体感的には、生活全般が、すごく楽になった人が多いみたいです。
建設コンサルの友人から、「年度当初の仕事がない時期などは、在宅勤務という名の長期休暇だった。入社以来、こんなにのんびりできたことはなかった」的な話を聞いています。
それで、売上も利益も減ってないなら、「今までの働き方は、なんだったんだ?」という話です。
ただ、これだけでは、現役世代だけ転職者が減少した理由の説明としては成り立ちません。
第二の理由として、社内の人間関係の悩みが軽減したためと推測します。
一時期、「人間の悩みのすべては対人関係」といった感じで、アドラー心理学が流行った時期があります。
アドラー心理学的では、「自分の意思で変えられるのは自分だけだから、自分でコントロールできることだけに集中する」と説きます。100%同意です。
この中で、社内の人間関係に悩むサラリーマンが、自分でコントロールできることは、
「ひたすら我慢する」、「自分のレベルを上げる」、「転属願いを出す」、「会社を辞める」の4パターンありますが、「会社を辞める」は、最終手段になると思います。
現役世代の転職者が減った理由は、在宅勤務によって「社内の人間関係の悩み」が軽減し最終手段である「会社を辞める」選択肢まで、至る人が減ったためだと思います。
社内の人間関係を円滑に維持し続けるのは、本当に難しいことです。
日本的企業は、上司・部下、同僚、先輩・後輩、等々、公式・非公式に様々な人間関係があります。
上下関係があり、力を合わせる仲間であり、競争相手でもあり、友人でもありです。
また、人を利用しようとする人、小さなミスも許せない非寛容な人、恨みを絶対に忘れない人も現実社会では多く、ささいなことで孤立したり、恨みを買ってしまいます。
しかも、一度、こじれた人間関係は、どちらかがいなくなるまで、決して解消することはありません。
これまで、コミュニケーションの達人であっても、人間関係トラブルに巻き込まれてしまうところを見て来ました。
周囲から孤立したり、承認の無い状態(みんなから馬鹿にされる)や、悪意や敵意を持つ人が、身近にいる状況で、日常を送るというのは、息苦しくて、それを何十年も続けるのは、難しいと思います。
こうした人間関係の苦悩の多くの原因が、単なる好き嫌い、礼儀作法、妬み、マウンティング合戦、出世競争などであり、本来のビジネス「建設コンサルタントとして良い仕事をして報酬を頂くことと」と関係ないことを原因として生じていることに馬鹿らしさを感じで来ました。
その結果、人材が流出していたとしたら、企業にとって、どれほどの損失だったのか計り知れません。
在宅勤務によって、少なくとも社内の「嫌な奴」とは、ビジネス上の最低限の接触で済むので、人間関係の悩みが大きく軽減したことでしょう。
在宅勤務導入の評価まとめ
在宅勤務の普及により、建設コンサルタント業界においては、従業員は、仕事が楽になり、自由時間が増え、人間関係の悩みを軽減することにより、生活充実度(QOL)は大幅に上がりました。
また、企業経営としては、売上、利益とも平年並みで、生産性低下等の悪影響はほぼない上に、現役年代の中途退職が減少し、人材流出ロスが減少したことを考えれば、企業の利益にプラスの影響が大きかったと言えるでしょう。
在宅勤務に不満・不安を抱える人達
企業側と従業員の双方にとって、メリットが大きかった在宅勤務ですが、在宅勤務の普及について、不満や、不安を覚える人も少なからず存在するはずです。
現状の在宅勤務は、緊急措置的に、とりあえず自宅で仕事をする形であり、既存の会社の組織やシステムに、大きな変化はありません。
日本企業的組織は、階層的でありながら、職務範囲や責任が不明確な中、個人の貢献意欲と、全体の空気でなんとなく、組織が回っていく統治形態です。
上層部は、出世競争の勝利者として、自己評価高く、君臨して、威張るだけといった感じで、部下の結果に対して、褒めたり、怒ったりという管理をしています。
マネジメントの知識があり、高度な意思決定を行っている人は、ごく少数派です。
上層部は、実は大したことはやっていないことを知られたくないため、経営情報は社員に対して秘密主義を取ります。経営会議など、多くの秘密会議を開きたがります。
次に、部下達ですが、自己防衛として、自分達の職務をブラックボックス化します。
各部署~各人レベルに至るまで、それは起こります。多数派である彼らに、激務、頑張っているアピールされた上で、ブラックボックス化されると、上は下を信じることしかできません。
その仕組みを利用して、のらりくらりと生きる人が出てきます。
参考コラム:「業務からの逃げの達人の思い出」
そうやって、上から下まで、「誰が何をやっているのか、良くわからない」という感じが日本の組織です。
その状態、仕組みのまま、緊急措置的に、在宅勤務に突入するとどうなるか、考えてみてください。
まず、上層部ですが、実質の仕事は、君臨して威張るだけではあるのものの、以前は、やたら秘密の会議をしたり、部下を褒めたり叱ったり、部署を見回ったり、「役に立っている感」と「俺は偉い」的な承認欲求が満たされていました。
ところが、在宅勤務の導入により、自分の仕事はほんとんどないことに気が付きます。
また、マウンティング相手だった部下達が物理的に目の前から姿を消してしまいます。パソコン画面相手に承認欲求が満たされません。
また、業務から逃げ回っている人達ですが、これまで激務アピールしながら、仕事をするふりをして深夜まで会社で過ごしていた人達は、在宅勤務導入において、もうアピールする必要もなく、本当に「楽で暇」な天国状態になったわけです。
上記の二者は、無期限に続く有休休暇の状態で、ほとんど仕事をしなくても給与、賞与はしっかり貰える夢の状況ではありますが、この状態になって「自分の存在価値」に疑問を感じ、「このままの状況が続くわけがない」と不安を覚えている人も多いでしょう。
在宅勤務将来【三つのシナリオ】
シナリオ1:経営陣が優秀な場合
本物のビジネスパーソン、株主利益を第一に優先する経営陣が存在する企業の場合の意思決定について考えてみましょう。
株主利益とは、永久継続を前提した長期利益の最大化になりますので、建設コンサルタントとして、顧客・社会に価値を与えて報酬いただく、この仕組みを、シンプルに最大化することを目指す経営になります。
長期的利益の最大化するためには、社会、顧客、従業員のすべてが得をする「三方良し」を目指すことになります。
具体的には、法令やSDGSなど社会利益に考慮し、無駄をなくし、人材を育成し、能力を100%発揮できる自由で働きやすい環境や、仕組みを整備し、成果に応じた給与を払い、モチベーションを向上する。
そうして得た利益を、将来の利益に対して、継続的に投資し、新たな価値を創造していく、そうした経営になるでしょう。
現状の仕組みを変えないままに、緊急的な在宅勤務であっても、企業経営、従業員の生活、双方にメリットが大きいことが明白であることを認識しつつも、いつくかの課題・デメリットが見えてきます。
例えば、本社ビルです。一等地のピカピカのビルで、豪華な役員室や、机や椅子、その取り巻き達、毎月支払う莫大な家賃、こうしたものは、見栄とステータスの象徴であって、何の価値も生み出していません。
在宅勤務で人のいなくなったオフィスで、大きな無駄に気が付くはずです。
逆に、在宅の仕事環境の整備の強化が早急に必要になるでしょう。単身者の孤立・孤独の問題も起こるでしょう。
また、対面でしかできないもの、新人教育や、共同作業や、その他の課題も明確になってくると思います。
そこで、小規模なワークスペース拠点を、分散的に整備する必要もあるかもしれません。
また、コミュニケーションを支えるIT分野への投資や教育も重要になります。
さらに、組織全体の部署、個人の職務がブラックボックス化し、管理職だらけで階層的組織の伝言ゲーム的にしか情報が集まらない現状の組織構造の弊害が、在宅勤務になってさらに明確になります。
組織のフラット化、業務・職務の見える化、計数管理の強化が重要さを痛感できでしょうし、IT技術の進歩がそれを可能にしています。
そこで、本社ビルを大幅に縮小し、在宅での仕事環境整備や、小規模ワークスペース拠点を整備し、IT投資や教育を行い、組織をフラット化し、業務を見える化し、計数管理を強化する。
こうした取り組みを行えば、在宅勤務におけるデメリットや課題を克服し、メリットをより強化できます。
投資費用は、膨大な本社賃貸費用や、通勤手当の削減だけで、十分にお釣り来るはずです。
そして、組織がフラット化すれば、大幅に管理コストが削減され、企業の利益が膨大に増えます。
従業員の報酬は増大し、特に成果を上げた人への報酬は大きなものになるはずで、モチベーション向上とともに、報酬と、働きやすさに惹かれた優秀な人材も集まってくるでしょう。
そして、企業利益を、将来の利益のための研究開発等に投資すれば、その企業の将来は明るいものとなるでしょう。
※参考コラム:「新しい働き方と建設コンサルタントの対応方法の留意点」
シナリオ2:元の働き方に戻る
次は、株主利益の最大化の意識が薄い経営陣の場合です。
年功序列の終身雇用の企業は、「正社員の利益」と「結果の平等」を重視した組織であり、株主利益の視点が薄いです。「会社は社員のもの」と本気で考えています。
上層部は、先輩が後輩を評価する出世競争に勝つ抜いた勝者として、一等地の綺麗なオフィスと、豪華な机と椅子、君臨して威張る権利を獲得し、社内の正しい序列と秩序を維持することが、主な職務です。
組織を階層化し、役職をたくさん作り、上から下まで職務がブラックボックス化し、誰が何やっているのか良くわからないまま、なんとなく、廻っています。
そうやって、各人が各所で楽園を作り上げて来ています。
在宅勤務により、自宅で画面相手に、部下を怒ったり褒めたりしても、承認欲求は満たされませんし、見える化されて、自分の仕事の実態や意義を問われたり、組織がフラット化されて自分が実務に戻ったりすることは、「悪夢」です。それだけは絶対に避けなければなりません。
「それで企業の利益が増えて、その利益を投資的に使えば会社が発展する」と言われても、「はあ?そんなことは知ったことではありません」、自分の役得があってこそ会社の存在意義があるのです。
そこで、在宅勤務による企業と従業員の利益やメリットは徹底的に無視し、否定します。そして、在宅勤務によって生じたデメリットや問題点を、針小棒大に騒ぎ立てます。
また、その問題の責任を、在宅勤務を推進しようとするグループに突き付けて、攻撃します。
「働き方に自由があるなら、出勤する自由もある」と主張すれば「在宅勤務は任意選択」という形に持ち込むのは容易でしょう。
そうなれば、しめたものです。
会社に出勤した人間だけで、徒党を組めば、経営会議でも、非公式組織でも社内のすべてを牛耳ることができます。
在宅勤務を選択している人を「あいつらは自宅でさぼっている」などと、欠席裁判的に、低評価することは容易です。
在宅勤務を選択する人は、出世コースから外れていくでしょう。
そのため、みんな、会社に出てきて、これまでのように遅くまでだらだらと会社で過ごすようになります。 これまでの「会社員の楽園」の復活です。
在宅勤務は、出世を諦めた介護等の家庭的な事情等を抱えた人だけの特例措置になるでしょう。
そして、表向きは、「在宅勤務ありの先進企業」を装いながらも、内実は、昭和の企業のままです。
もし、この段階で、再度、ロックダウンのような事態が起これば大きな混乱が生じるでしょうし、優秀な人材は流出してしまうでしょう。
シナリオ3:超監視型の在宅勤務
現在のIT技術の進歩は、凄まじく、仮想現実の世界などが、一般人や企業でも手の届く範囲になってきています。
こうした、IT技術を使えば、今までの出勤していたオフィス感覚そのまま、在宅勤務をすることが可能になっています。
つまり、今までのやり方を、全く変えずに、在宅勤務に移行することも可能です。
例えば、現時点でも、ずっとWEBカメラやマイクを繋ぎっぱなしにすることを要求する会社もあるようです。
webカメラ越しに、上司が部下を、ずっと監視したり、呼び出して説明を求めたりするわけです。
また、パソコンの接続時間や、入力文字数をカウントしたり、AIを使ってさぼっていないか監視するソフトもあるそうです。
さらに、バーチャル空間のオフィスに、集まって仕事をする技術もあります。
つまり、実際に実務をする人達にとっては、これまで以上に、常に監視されながら仕事をすることになり、実に息苦しい働き方です。
毎日、深夜まで自宅で、お付き合い残業みたいな感じでしょうか?
しかも、膨大なIT投資の割に、生産性の向上やコスト削減効果はゼロです。
どのシナリオになるのか
このコラムで、「株主利益」と書いた瞬間、拒絶反応を起こしている人も多いのではないでしょうか?
法人は、本来、永久継続が前提で、株主利益を尊重する賢明な経営者は、企業の存続のために社会利益を最優先するものです。
現在は、SDGSなどの配慮も求められ、また企業の悪評がすぐに広がる情報化社会でもあり、経営における長期利益のための社会利益重視の傾向が強くなっています。
しかし、日本社会は、「株主利益」→「短期利益:従業員や社会を犠牲にして金儲けするもの」という決めつけが強いです。
そして、経営陣の中にすら長期的な株主利益を考えて行動できる人は少数派です。
実際のところ、経営会議で多数決的に経営意思決定がなされる企業がほとんどなので、シナリオ1を選択できる企業は、少数派でしょう。
残念ながら、多くの企業は、シナリオ2と3の中間あたりに落ち着くと予測しています。
※参考コラム:「いつまで年功序列と終身雇用はつづくのか」
これほどIT技術の進歩し、世界経済が3倍以上に成長した30年間、ゼロ成長を続けた日本です。
日本の伝統文化?である年功序列、終身雇用を守ろうとする力を舐めてはいけません。
現状の、非正規労働や下請け叩きをしながら、社内で意味のない残業や役職を放置し低空飛行を続ける企業経営者が、自分達が、従業員を大切にして社会利益を最大化していると信じているから困ったものです。
ただ、長期的には、「シナリオ1」的な企業が、優勢になっていくことは明白であり、
20年後には、そちらが多数派になっていると信じたいです。
各人はどうすればよいのか
今の状況に満足している人は、逃げ切りに運を任せて、会社にしがみつき、暮らすのも一案です。あと10年、20年は大丈夫でしょう(多分)。
そんな人生は、まっぴら、何とかしたいと思う人は、まず目標として、好きな所に住んで、自由に仕事ができる楽しい新時代に適応できる独立性の高い人材になることを目指すべきでしょう。
仕事的には、周りに流されず、在宅勤務に積極的に適応して、業務で成果を上げられる人材になりましょう。
また、在宅勤務で増えた時間的余裕を、勉強などの自己投資に回してください。
まずは、1日一時間からでも始めるべきでしょう。
※参考コラム:「燃え尽きてしまったサラリーマンはどう生きるか」
そして、自分の価値を高めながらも、転職や独立など挑戦を繰り返していくことです。
多少の失敗もあるでしょうが、それも後では楽しい思い出です。そうやって自分の未来は、自分で決めて自力で切り拓いていくと、後悔の少ない人生が送れます。
ご参考になれば幸いです。
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