建設コンサルタントと経営コンサルタントの違いと共通点

  職業「自称 経営コンサルタント」と聞くと、怪しさを感じますよね。
 同じ、コンサルタントでも建設コンサルタントは、建設分野の技術のプロとして、公的機関発注の業務を行うのですから、いたって品行方正な、固い職業なのですが、建設コンサルタントという職業は、世の中で、認知されていません。
 そのため、建設コンサルタントの皆さんも怪しい職業と思われた経験をしている人が多いと思います。

 経営コンサルって何をしているのだろうか?興味を持つ人も多いと思います。
 ここで、建設コンサルタントと経営コンサルタントの両方を経験している立場として、両コンサルタントの違いや共通点などを述べていこうと思います。
(この記事は2020年3月(新型コロナパンデミック)以前)に書き溜めたものです)

建設コンサルタントと経営コンサルタントの産業構造の違い

 建設コンサルタント業界の最大の特徴として、きっちり確立した市場・産業構造があるとことが挙げられます。
 ほぼ100%公共機関(関連機関含む)からの受注であり、公共調達の制度が整備され、業法があり、登録要件を満たした企業しか建設コンサルタントを開業できません。
登録には、当該部門の技術士が必要となりますし、更新する必要もあります。
 業務を行う上でも入札により業務を受注し、契約約款、業務共通仕様書、技術基準、標準歩掛などが整備されており、建設コンサルタント業務を行うための仕組みがきっちり整備されています。
 そのため建設コンサルタントの経営というのは、しっかりした人材を揃え、建設技術のプロとしてきっちりした仕事をして、成果(品質、納期、コスト)を満たすことに専念していけばやっていけます。
 「人材の確保」と「実績」が競争力の源泉になりますので、新規参入は難しい側面があり、外資もほとんどなく、競争環境は、ほとんど既存の業界内の企業のみの競争になります。
 そのため、ちゃんとやる気のある企業は、伸ばしていけると思います。
 ※だめな企業も生き残ってしまうのですが。

 一方で経営コンサルタント業界というのは、何も定型のものがありません。明確な市場も業法も契約約款や基準すらありません。ある意味、なんでもありですし、何をやっても収益化するのは難しいというのが実際です。
 経営コンサルタント会社というのは、大体が、コンサルタントに伴い必要になる周辺領域、マーケティング調査や、広告代理店、人材紹介・派遣、社員教育、セミナー、IT導入(システム販売)などなど、様々なことを組み合わせて収益化しています。
 経営コンサルティングというのは、ちょっとした営業サービス的な側面があり、稼ぎ所が別だったりします。自社製品を提案し売るコンサルタントなんて、中立性など何もないことになりますが、こうやってあらゆることをやって稼ぎます。
 こういう世界にいる人から見れば、市場があって、業法も契約約款も共通仕様書も標準歩掛も技術基準もあって、登録された業者間の競争で入札により仕事を受注できる産業というのは、商売のやりやすさという点で、うらやましい限りだと思います。

建設コンサルタントと経営コンサルタントの個人レベルで活動する人の違い

建設コンサルタント業界において個人レベルで活動する人というと、下請けやフリーランスという活動形態をとることが多いでしょう。
 下請けとして独立する場合、技術士はあれば有利ですが、無くても大丈夫です。
現状は、圧倒的に「下請けさん」が、不足しています。
 業務経験と、請けた仕事をしっかりこなせる能力があれば、ある程度稼ぐようになることは難しくありません。また、独立において大きな初期投資が必要はなく、パソコン、携帯、基本的なソフトだけでなんとかなります。
 そこは最大のメリットと言えるでしょう。

 下請けとして独立して順調に行ったので、さらなる拡大を目指すとします。しかし、例え技術士を持っていても、建設コンサルタント登録して元請け受注を目指すケースは稀です。
 その理由は、まず、人材を確保することが困難であり、さらに、元請け受注した場合、支払いは前払い金(30%以内)+完成払い(納品検査後)となることから、運転資金確保に苦労することになります。
 さらに、企業経営の知識がないケースがほとんどなので、リスクを回避しながら運営する方法が分かりませんし、不安や恐怖感は大きいものがあるでしょう。
 また、業務範囲もほとんどが建設コンサルタント業務の範囲だけになります。
 他業種や、新たなビジネスに手を広げるケースはほとんどありません。
 個人レベルで稼ぐ場合、リスクは少なく成功確率は高いですが、そこからの拡大や、建設コンサルタントの枠を超えた活動領域への進出は大きな壁があるのが実際です。

 次に経営コンサルタントですが、何も定型のものが無いので、誰でも思いついたその日から「僕は経営コンサルタントです」と名乗ることができます。そのため自称経営コンサルタントの中には、カルトまがいの占いレベルの人やインチキ詐欺師も混ざってくることになります。
 日本では、元々、知恵にお金を払う文化がありませんし、怪しい人も多いということで、純粋な経営参謀のような経営コンサルタントで生計を立てられる人は僅かです。
 信用を得るためには、実績、独立前の所属、資格(MBA、中小企業診断士等)や書籍を出版する。情報発信やセミナーなど、いろいろな要素があります。
 実際に決め手となるものはありませんし、実績などは、建設コンサルタントの場合は、テクリスで確認できますが、経営コンサルタントの自称では真偽の確認のしようがありません。
 そのため、有名な経営コンサルタント会社で活躍していた人でも、外の世界で、自分一人で食べていける人は少ないという話を聞いています。

 個人の経営コンサルタントで最も多いのが中小企業診断士になります。
 中小企業診断士というのは、経営コンサルタントのための唯一の国家資格と言われていますが、元々は公的機関が中小企業に経営指導や支援をするために作られた資格です。
 現在、経産省管轄だけでも毎年数千億円の中小企業対策と呼ばれる様々な支援が行われています。その他、各省庁、地方自治体、地銀等、それぞれ中小企業対策を行っており全体規模は想像もできません。
 例えば、中小企業経営者は、中小企業支援機関に行けば、無料で経営相談や、中小企業診断士などの専門派遣による経営指導を受けることができます。
 中小企業診断士が作った経営計画を銀行に持っていけば、金利が下がったり、特別融資が受けられたりします。
 また、補助金や助成金の取得も支援してもらえます。
 そんな感じで、公的機関の中小企業対策の末端で動いているのが中小企業診断士です。

 顧客にとって無料コンサルで、診断士の報酬は公的支援機関から受け取ることになります。
 業務規模がせいぜい日単価数万×数日程度なので、公的支援機関がどの診断士を使うかは全部「随意契約」で決まります。
 建設コンサルタントの人なら「随意契約」という素敵な響きの意味は分かるでしょう。
 支援機関職員、そこをナワバリとする診断士グループの仲間内に入れれば安定して仕事を得ることができます。

 それに成功すれば税金にぶら下がって、経営コンサル未経験で中小企業診断士を取得しただけで、「先生」と呼ばれて、自称「プロの経営コンサルタント」として活動して暮らしていける可能性は高いでしょう。
 基本的には単価も安くあまり稼げませんが、いろいろな裏技で稼いでいる人もいます。
 ちなみに私が中小企業診断士で独立した当初、数年は公的機関の業務もやっていました。
 「顧客にとって無料」、「役所に絡みで制約が多い」という点に魅力を感じられず、卒業しました。

 経営コンサルタント出身者や中小企業診断士、どちらも経営専門家とは名乗っていますが、ちゃんと顧客から報酬をいただくビジネスをやって成立させられる人は、ごく一部の人に限られるでしょう。
 それが現実です。

 しかし、ごく一部の自分で考えて動ける人で経営の知識があれば、活動領域に制約はないので、顧客のニーズを研究して、よいチャンスを見つければビジネスとして成立させることができますし、その気になれば発展性は無限にあります。

(中小企業診断士や経営コンサルタントについてはこちらのコラムもご参照下さい「中小企業診断士として独立を考えている人へ」)

建設コンサルタントと経営コンサルタントの共通点

 次に共通点ですが
 建設コンサルタントは、発注者の抱える問題や、課題を解決するために、発注者の話をよく聞いて、いろいろ調査して、把握し、分析し比較検討し、最適案を提示し、問題解決し、最終仕様を決定する仕事になります。
要は、建設技術分野の問題解決や仕様決定の最適化のプロフェッショナルとしての能力が要求されます。 

 経営コンサルタントも、経営上の課題に対して建設コンサルタントと同じアプローチを取りますので、プロとして活動する領域が「エンジニアリング分野」なのか、「企業経営」なのかの違いだけで、要求される基礎能力は共通点が多いと思います。

 そのため、建設コンサルタント業務で高い能力を持っている人が、経営の知識を身につければ、経営コンサルタントで即戦力となるのに時間はそれほどかかりません。
 特に工学的に難しい業務より、地元やら関連機関やらの問題、課題がぐちゃぐちゃの大型案件を回せる人は、適性があると思います。
 経営コンサルタントの基本スキルとして「診る」「聴く」「書く」「話す」などと言われています。
 他業種出身の中小企業診断士を見ていると、有名企業であっても日常業務で、比較検討も根拠も、顧客説明も報告書も書いたことがない人達が大部分でした。
 建設コンサルタントの人は、この辺の能力は一日の長があると思います。

おわりに

 建設コンサルタントと経営コンサルタントの違いや共通点について、解説してみましたがいかがでしょうか?

 建設コンサルタントの技術者で、キャリアも積み技術士も取得した人は、セカンドキャリアとして、経営マネジメント系を考えてみるもの面白いと思います。
 決して不可能ではないです。実際に私みたいに両方に挑戦した人もいます。

(中小企業診断士に興味がある方はこちらのブログ「中小企業診断士のつぼ」もご覧ください)

 ご参考になれば幸いです。

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