公務員からの転職希望者が増えている件(異変)
最近、公務員から建設コンサルタントへの転職希望者が急増しています。
主に地方公務員、中にはキャリア官僚まで様々です。
昔から、建設コンサルタントから公務員へ転職する流れはとても多かったのですが、最近、逆の流れが増えてきたことに「時代の変化」を感じています。
常にノルマに追われて、乙の立場で、発注者である役人にペコペコしている建設コンサルタントから見ると、「楽で安定」の極致に見える公務員から、建設コンサルタントへの転職なんて理解できない人も多いと思います。
公務員からの転職者は、若手が多いのですが、転職理由は「何のキャリアにもならない仕事ばかりで、将来が不安」という人が多いです。
確かに、超高学歴でも最初は出先事務所で30代まで修行みたいな話で、職務がパトロールやら清掃手配、台帳整理みたいな感じで、貴重な20代のキャリアがこれでは腐るよな~という感じです。
30代半ばも過ぎると役人の世界にどっぷり漬かって、選民的な自己評価を持つ公務員様になってしまう人もいますが、そういう未来に危機感を持っている人も中にはいます。
公務員の転職希望者は「将来も年功序列と終身雇用が続くとは思えない」などと言います。
「いや~、さすがに公務員だけは、あと30年くらいは大丈夫じゃない?」などと思っていたのですが、実際に役所の現場にいる彼らの考えの方が、妥当性があるように思えてきています。
「公務員の雇用形態の将来」についてですが、私自身が、国交省所管の研究機関で、欧米の建設マネジメント、公共調達制度を専門に研究していた経験もあり、欧米の状況を含めて、「日本の公務員組織は将来どうなるのか」解説したいと思います。
欧米の公務員組織と日本との違い
欧米の公共調達制度専門の研究員時代は、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなど各国の行政機関(国、州、県、自治体などのインフラ部門)や民間企業(建設会社など)などをヒヤリングに回っていました。
一回の調査で、20か所くらいは回ります。
そうした経験の中で、強く心に残ったことは、どこの組織でも、所属組織を紹介する時に、マネージャー7人、エンジニア15人、ワーカー300人という形の紹介から始まることです。
これは、本当にどの行政機関でも同じで、こうした組織観が社会常識になっていることが分かります。
つまり、欧米の建設行政の組織構造は、一握りのマネージャー(管理者)、エンジニアと多数のワーカーによって構成され、フラットに近いピラミッド型組織構造となっています。
欧米型の組織は、「職務制」(いわゆるジョブ型雇用)といわれて、まずポストがあり、そのポストの職務詳細(職務、権限、責任)が定義され報酬とセットになっています。
その職務をやっている限り何年経っても基本的には、昇給も昇進もありません。
組織の上層ほど、裁量範囲が大きく、難しく、責任は重くなり、報酬も増えます。
ワーカーの職務範囲は狭く、難易度も低く責任が少なく、労働時間も少ないので、楽ではありますが、報酬も少ないです。
何年やってもワーカーはワーカーのままで、昇給も昇進も基本的にありませんが、ヨーロッパは社会保障が充実しており、階級社会でもあるので人生を割り切ってしまえば、呑気に暮らして生活を楽しめると思います。
また、ヨーロッパにおいては、ワーカーは解雇されにくい仕組みがあるようです。
エンジニアやマネージャーになりたい人は、まず専門の大学で学位を取得していることが最低条件で、いきなりエンジニア層の最下層の仕事に就きます。その後も研鑽して実績を上げると共に、学位(工学系やMBAなど)や技術士のような資格を取得していきます。
そして、昇給・昇進等狙うには、他のポストを奪うか、空いているポストを探すしかありません。
つまり自分で主体的に動いて掴み取るしかありません。
そのため、欧米における建設エンジニアは、技術のプロとして自分でリスクを負って、よいポスト(職務と報酬)を求めて転職や自己投資の挑戦を繰り返しており、人材の流動性が高く、社会的地位も報酬も大きなものになります。
一方、日本の伝統的雇用制度は、「職能制」と呼ばれ、職務ではなく能力に対して報酬を支払います。年齢と経験年数が上がるほど能力が向上する前提で、職能ランクがあり、同じ仕事をしていても年数が経てば職能ランクが上がるので昇進、昇給をします。
仮に閑職で遊んでいたとしても、潜在的な能力に対して職位と報酬が支払われます。
そして組織の上層部まで、ほとんどが外の世界を知らない人達で構成されています。
建設分野の技術職は、建前的には全員エンジニアです。組織機能としてエンジニアはそれほど必要がなく、実態として職務の8割はワーカーレベルです。
そこから、年齢と共に昇進してマネージャーにもなります。
職務範囲も権限も責任も不明確で、仲間意識で組織がなんとなく廻っています。
いわゆる新卒採用、年功序列、終身雇用、「メンバーシップ型雇用」というものです。
※民間企業も大体が同じような組織構造であり、日本社会全体の伝統的組織体系といってよいでしょう。
「組織構造」とは
経営合理的な観点から見た「組織構造」とは何か、簡単に整理します。
世の中は、それぞれが、社会に価値を提供して報酬を得ることで成り立っています。
例えば、企業は顧客に価値を提供し報酬をいただく、行政機関は国民の納めた「税金」で社会のために公共事業・行政サービスを行っております。
そして、人々は企業や行政に所属して「労働力」を提供し報酬を頂いています。
企業も行政機関もそれぞれが、社会に価値を与える具体的な事業目的があります。
そして事業目的を実現するための「最適な組織構造」があり、ポスト(職務、権限、責任、報酬)が定義され、そこに人材が確保されるのが組織構造のあり方です。
組織構造を評価する視点として経営学的に以下の「組織原則」があります。
「統制範囲の原則」:最適な管理部門の規模(管理部門の肥大化を抑制)
「専門化の原則」:職務の明確化と専従化による習熟化
「命令統一性の原則」:組織の指示系統の重複させない
「責任と権限の一致」:職務に対する責任の明確化と権限の付与
などがあります。
欧米と日本の行政組織の評価
日本と欧米の組織の違いについて考察評価してみます。
①組織の総額人件費
欧米等の職務制は、職務に対して報酬を払う方式のため、社会の高齢化による影響を受けません。組織の構成メンバーがどれほど高齢化しても総額人件費は変わりません。
一方、日本の年功序列・終身雇用は、同じ仕事をしていても昇進・昇給をしていくので、組織構造に変化がなくても高齢化により総額人件費が年々増大します。
②組織の機能性
欧米型の組織構造は、「組織原則」に留意し、事業目的達成のために設計された「最適な組織構造」であり、ピラミッド構造のトップダウン的構造で、高齢化により組織構造が影響を受けません。
一方、日本型の組織は、元々が職務範囲も権限も責任も明確でありません。さらに、高齢化に伴い、職位も上がるので、新たなポストが必要になります。
そして、組織が重層化し、組織構造的に必要のない役職、管理部門が肥大化します。非ライン、○○官、~幹などの管理職だらけで逆ピラミッド型の組織構造になっていきます。
また、無駄な承認、はんこリレーも増え、命令系統も曖昧です。
「組織原則」的に満足するような要素がほとんどなく、果たして機能しているのか疑問になります。
③採用のオープン度・公平さ
欧米の場合、年齢に関わらず職務に対して報酬を支払うので、中途採用の年齢面での制約がありません。
一方、日本の場合、年齢ごとのモデル賃金があり、年齢が上がるほど人件費が高くなるため中途採用されにくくなります。
④人材の質
欧米型の場合、エンジニアは最初からエンジニアとしてキャリアをスタートし、レベルの高い職務、報酬を得るには、他のポストを自力で掴み取るしかありません。
そのため組織の人材流動性は高く、自己研鑽(学位、資格、業務実績等)を行い、自分でリスクをとって転職等の挑戦を繰り返し、公務員、民間企業など様々な組織で幅広い経験を積むことになります。
マネージャー、エンジニアクラスは外の世界で通用するプロ人材がいます。
一方、ワーカーレベルは、昇進、昇給もないので、モチベーションは低い可能性があります。しかし、異動もなく職務が明確な上に範囲も狭いため、「専従化」により即戦力化や習熟化はしやすいです。
日本型の場合、建前上、全員がエンジニアですが、ワーカーレベルの仕事8割、エンジニア的な仕事2割程度の職務でジョブローテンションによる異動を繰り返し、中高年にはマネージャーになるという感じのキャリアになります。
そして、自分でリスクを負ったこともなく、外の世界を知らない人達で組織が構成されています。
以上に、日本と欧米の組織構造を評価してみました。
※これは行政だけでなく、民間企業においても全く同様のことが言えます。
国民(インフラ利用者、納税者)視点で見た場合、どちらが「あるべき姿」なのか、ご判断いただけると思います。
日本は役人天国か?
日本の公務員の平均年収は欧米の二倍とか、公務員の数が多すぎるとネット上で叩く人がいます。
一方で、「日本の公務員の平均年収は欧米より低め」、「国民人口比の公務員数は少ない」等の根拠あるデータもあります。
これらの真偽ですが、例えば、平均年収を同じ職位同士で比較したりしています。
欧米型の組織の一握りのマネージャー、エンジニアクラスと日本の管理職と比較すれば、欧米の方が日本より年収が高いことは十分にあり得ますが、日本の方が非ラインを含めて管理職だらけなのだから、総額人件費は高いはずです。
また、非正規、嘱託等を含めた総職員で割った値を平均年収として提示するデータもあります。
要するにこの手の調査は、調査者自身が公務員なのだから自身の都合の悪いデータが出てくるわけないのです。
行政の正規職員だけで比較したら、欧米よりはかなり上の値を示すと予測します。
(※誰かちゃんと調べてね)
さらに言えば、実質ワーカーなのにエンジニア待遇で、そのままマネージャーにもなれて、ワーカーレベルの雇用の保証を受けられるのだから、福利厚生面を含めた待遇はかなり良いと言えるでしょう。
待遇面だけ考えれば「役人天国」という表現は間違っていないと思います。
皆さんが気になるのは「いつまでこの状態がいつまで続くのか」ということだと思いますので次に考察します。
公務員の年功序列・終身雇用が崩れる可能性
日本がバブル崩壊以降、「数十年もゼロ成長」の間、世界経済は「3倍以上」の規模に拡大しています。当時、世界の上位企業に多くの日本企業がありましたが、今はほとんどありません。
30年間、世界と比べて負け続けている状態なのです。
日本の没落の原因は、行政も民間も将来の価値を生むための投資的活動(研究開発等)が少なすぎることにあります。
投資的活動が少ない原因は、組織が、「正規職員の年功序列と終身雇用を維持することを第一優先として運営されてしまう」からです。
高齢化し組織原則が崩れて機能しなくなっていても、将来利益の生むための投資に回すべきお金をゼロにしても、また派遣や嘱託などの非正規雇用を増やし「同一労働同一賃金の原則」から逸脱する道徳的に望ましくないことをしながら、民間も行政も年功序列を維持してきたのですから、世界から負け続けて没落していくのも当然です。
しかし、国際競争に晒されている産業は、もはや限界であり組織の生き残りのために変わらなければならない状況にあります。
参考コラム:48歳定年の話(日本のリストラ考)
しかし、日本のGDPの半分近くを占める公共部門(国と地方の総財政支出は230兆(国債償還除く)以上)と関連産業は、自ら変革する動機がありません。
欧米のように、社会的不公正に対する訴訟もあまり起こりません。
三権の中で唯一の可能性は、政治的トップダウンですが、現状の政治システムでは、既得権側が組織力も団結力もあり圧倒的に強いです。
特に雇用システムの変革は反対が強すぎて政治的にアンタッチャブルな状態です。
だから「公務員の年功序列は、今後30年くらいは大丈夫」と思っていました。
ところが必ずしもそうはいかないように思います。
年功序列が崩壊する日「Xデー」が来る日
「社会が大きく変動する要因」は、自己改革以外にも「技術革新」や「大きな外部環境変化」によっても起こります。
「技術革新」で言えば、今後、IT技術の進歩により、定型的な業務はAI等により消滅していきます。また、リモートワークの普及により、労働力の調達は地理的な制約を受けにくくなっています。
さらに、「外部環境の変化」として新型コロナのような世界的インパクトがその状況を加速しています。
100%企業側の都合で考える理想的な労働力の調達は、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ調達すること」です。
しかし、それでは雇用者は企業に翻弄されてしまいます。そこで各国が雇用者を守るために関連法規が整備されています。
しかし、現在、雇用によらない労働力調達であるフリーランス、ギグワーク、複業の動きが拡大しています。
これをIT技術の革新やコロナ等による社会変化が後押ししています。
今後、雇用によらない労働力の調達市場は、国境すら超えた世界に広がっていくでしょう。
そうした働き方が主流になってくると、社会保障(雇用、年金、保険等)を企業側に押し付ける政策では、セーフティネットから漏れた人々が社会に溢れてしまうでしょう。
将来、必ず国が直接国民にセーフティネットを提供しなければならない時代になると予測します。
参考コラム:「ベーシックインカムは実現してしまう件」
こうした時代の変化により、仮に有権者の7割が「年功序列、終身雇用は廃止すべき」という世論に至ったとしても、現システムでは政治的な決断は難しいでしょう。
そこで、「Xデー」です。
いずれ個人認証(生体認証、パスワード、ブロックチェーン)が進み、通帳も免許証も保険証も年金手帳もマイナンバーに統合されます。
そして、投票もweb投票が導入されるはずです。結果、投票率が大幅に上がります。
その時が、年功序列の終わりが始まるXデーになるでしょう。
それまで既得権側の抵抗で、住民投票やら選挙やらでも進まなかった多くの政治的決断が、実行されやすくなるはずです。
Xデーは、いつか必ずやってくることは間違いないですが、世界から没落を続ける現状を考えて、さすがに30年後はあり得ないと思います。
おわりに(公務員は本当に楽か?)
安定し待遇的にも悪くない公務員ですが、「本当に楽か?」というと、そうでもないようです。
当社への公務員の転職希望者から聞くと、「ストレスを原因とする休職者が、とても多い」と聞いています。
個人的に年功序列の組織(役所や大企業)の人で苦々しく感じることは、所属組織と職位のステータスと自己評価が一致して、選民的で根拠のない万能感にあふれてしまう人がいることです(一部ですが)。
成果や職務ではなく潜在的な能力(年齢)に対して職位が決まり、報酬も貰えるのだから、自分が存在しているだけで価値があり、お金が貰えると勘違いしても仕方がないとは思います。
特に、行政組織は絶対的な安定と、民間への許認可権者や発注者でもあるのだから、その傾向が顕著です。
根拠のない万能感に溢れた人をみると、何のリスクを負わず、中高生の感覚のまま生きてきている感じがしてしまいます。
こうした同質的かつ閉鎖的な村社会で、同僚・上司の顔色を窺って一生過ごすことは、人によっては、とてつもないストレスだと思います。
どんなに職場が苦痛でも、また、外の世界で挑戦したいことが見つかっても「リスクが怖くて挑戦できません」という人が、我慢を重ねてダウンしてしまうのが休職者の多い一要因なのかもしれません。
一方、建設コンサルタント業界は、きついかもしれませんが、専門技術が身に付きますし、つぶしも利きます。
業務実績と技術士があれば、転職も独立も可能です。公務員がよいなら40代からでも公務員にもなれます。
さらに、私のように他業種(経営コンサル等)に挑戦することもできるのです。選択肢は無限大です。
欧米の建設エンジニアのように行政、民間と自由に行き来してキャリアが積める時代が来ています。
新たな挑戦、応援しています。
よろしければ、下記の記事もご覧ください。
このコラムをシェアしていただけると嬉しいです。