技術指導で活躍したいシニア技術士について

  当社へのご登録者において大手企業等を退職した60代の技術士で、中小建設コンサルタント等での技術指導や後進育成などを希望される人は、かなり多いです。

 こうしたケースにおいて、技術指導で活躍したいと張り切って入社したものの、あまり上手くいかないケースがあります。

 逆に、仕事は「ほどほど」のつもりで入社したのに、社内で大人気になってしまうケースもあり、割に合わないとぼやかれるケースがあります。

 どうしてこのように、極端なケースに別れてしまうのでしょうか?

 技術指導や後進育成で活躍したいと考えているシニア技術士の方に、夢の実現のために注意しなければならないことをまとめます。

ありがちな失敗パターン

大手コンサルОBくらいになると、会社での地位はもちろん、技術士は複数部門、総監、博士、表彰実績、学会論文賞くらいのキラキラ経歴の方も多く、皆さん自分の実力に大変な自負をお持ちです。

 入社先選びも、会社の規模や歴史、社長との相性や本気度、社風等を吟味して選ぶ傾向があります。

 面談時に、経営陣から経歴を称えられ「是非、お願いします」と頼まれ、大きな期待を膨らませて入社します。

 ところが、入社すれば、社長は、技術部の職員を紹介して「あとはよろしく」という感じで去っていくだけです。

 業務が始まり資料をチェックし、細かく修正事項を指導し、打ち合わせに同行し、発注者に様々な検討を提案し、とやってみますが、なんとなく反応が鈍いです。

 その後、なんの報告もなく、しばらくして打ち合わせに同行すると、こちらが指導したことを何もやっていませんし、客先と勝手に業務を進めています。

 そこで、本人に注意すると、その場は「分かりました」と答えますが、その後も何も改められません。

 ホウ・レン・ソウの基本が出来ていない「これだから中小企業はダメだ」などと思いつつも、しつこく催促すれば、相手は本当に、しぶしぶ、ノロノロ、嫌々感丸出しで対応します。

 そうしたことが重り、つい厳しく注意してしまったりします。

 そして自分が組織で孤立しているのが分かります。

 業務も終わりに近くなり、自分の指示に従わず勝手に進めた、恥ずかしいレベルの成果をみることもあります。

 検査時に、検査官に指摘されると「私は知りません」とか「指導したのに、やらなかった」などと口走ってしまい、会社とのトラブルに発展するケースもあります。

技術指導等で大人気になってしまうパターン

前記の失敗ケースとは逆に、もともと技術指導等にそれほど熱意があったわけではなく、「のんびり生活」を優先して、ほどほどを期待して入社したのに、大人気になってしまう人(ベテラン氏と仮称します)がいます。

 どのような過程で、そうなっていくのか解説します。

 業務が始まれば、事前に特記仕様や業務計画に目を通し、初回打ち合わせに同行することになります。

 ベテラン氏は、打ち合わせを聞いていて、初回時に必ず確認しなければならないことや、必要資料の有無の確認など、漏れが多いことが気づきます。

 あるいは、発注者の希望を、担当者が理解できていないと感じたりすることもあります。

 こうした必要データの不足や、業務課題の齟齬が、将来、手戻りやトラブルの元になる姿が想像できます。

 そこで、ベテラン氏は、打ち合わせの中で、さりげなく質問や確認を織り交ぜて、そうした齟齬を解消していくことができます。

 そうやって、打ち合わせを進めていく内に、顧客の要望や技術的課題、検討の方向性、業務の初めから終わりまでの流れ、成果のイメージが見えてきます。

 打ち合わせの最後に総括として、不足資料の請求や、必要な追加調査や設計変更(増額変更)等の認識、今後の業務の流れイメージ、次回打ち合わせの時期や内容について、ざっくり確認して、受・発注者双方の共通認識を作って終わる感じになります。

 さらに、その後、ベテラン氏は備忘録メモとして、打ち合わせ内容まとめをメールしたりできます。

 これは、ベテラン氏にとっては当たり前にやってきたことで、手間でもなんでもないことです。後々の面倒くさいトラブルを避けるために、ついやってしまいます。

 ベテラン氏に同行された担当者は、指導された感がなく、業務のイメージが掴めて簡単な仕事のように感じ、気分が楽になります。

 ただ、この時点で、担当者がベテラン氏を尊敬することはあまりありません。みんな「自分の実力」だと思います。

 でも、担当者は、打ち合わせに一人でいくと、沼にはまり何も見えないのにベテラン氏が同行すると、明瞭になることが重なります。

 発注者のするどい質問に、しどろもどろになったりしたときに、横から適切な補足をしてくれるので、同行してくれるだけで心強い感じがしてきます。

 そこで、担当者は、ベテラン氏に積極的に質問や確認、同行のお願いをするようになります。

 業務の終わりには、技術的課題も解決し良い成果が出来ており、発注者は感謝してくれます。 

担当者は、無駄なく手戻りなく、楽に業務をこなせた上に、増額変更も満額認められたため、業務利益が出て、さらに次年度以降の業務受注の可能性も広がっています。

 結果、担当者の社内評価は上がります。

 そうなると、皆がベテラン氏の指導や同行を望むようになり社内で人気になります。

 また、会社行事、社員旅行や、飲み会などに積極的に呼ばれるようになり、勉強会の講師を希望されたり、そんな感じで、社内で慕われ尊敬されといった感じになります。

 発注者側も、何かあれば「ベテラン氏に相談したい」と言うようになりますし、打ち合わせに同行しないと「今日はベテラン氏、来ないの?」などと言われるようになって会社として欠かせない人材になっていきます。

成功と失敗を分けるもの

①失敗するのは会社のせい?

失敗ケースはダメな会社で、成功ケースは良い会社だったに違いないと考える人もいると思います。

 確かにそういう一面もあるでしょう。

 しかし、地方コンサル等では、「道路」、「構造」といった感じで、複数のシニア技術士が在籍していて、一方は「誰からも呼ばれず」、もう一方が「大人気」ということもよくあります。

 つまり、「失敗ケース」の原因の大きな部分は、本人の「やり方」か「能力」であることを認識しましょう。

②尊敬欲求の強さ

前記の失敗ケースの人からは、「承認・尊敬欲求」を感じると思います。

 大体にこのタイプは、「特別な存在である自分」が、三顧の礼で迎えられ、指導先の社員達から、賞賛され敬われている「理想のイメージ」を持っています。

「大手出身の僕」が「レベルの低い中小企業を指導してやる」的なことを平気で言う人もいます。

 こういう選民的な価値観は、表向き隠しても社員達は敏感に感じてしまいます。結果、社員達から不快感を持たれてしまいます。

 一方、大人気になってしまうベテラン氏からは、承認欲求を感じず、実際に指導先社員に臣従や賞賛を求めません。

 そのため、担当者が不快感を感じることは少ないでしょう。

 また、指導先で大人気になり賞賛され尊敬される結果になっても、「当たり前」の貢献の結果であって、それほど嬉しそうにも見えません。

③プロ意識の有無

プロ意識とは、プロとして価値を提供し報酬を受け取る意識のことです。

 失敗ケースは、「長年の大手の経験を中小に伝えてやる」という感覚で、残念ながら、プロ意識に欠けています。

 なぜなら、上から目線で「大手の長年の経験」といった独りよがりの根拠で指導されても、社員は納得できない上に、「ただ威張りたいだけだろ?」とか「余計な仕事ばかり増やされて迷惑」となり価値を感じません。そこで、無視や不作為で対応するようになったと考えられます。

 一方、成功ケースでは、発注者・受注者双方が共通目標を持ち、目標達成に向けて、業務が手戻りなくスムーズに進み、より良い業務成果が出来るように常に意識して、業務を補足し誘導している意識が見られます。

 結果として、担当は楽で、発注者は感謝、会社は儲かるという「三方良し」になります。

こうしたスタンスは、皆が非常に助かるため、価値を感じ、感謝もしてくれます。

 これが、プロ意識と言えるでしょう。

上手くいくためのポイント

①相手に賞賛や服従を期待しない

上手くいかない根本原因が、人間の賞賛されたい願望にあります。

 本来、人間に上下はないはずですが、これまで上司と部下、大手と中小、発注者と受注者、正規・非正規等の立場の序列上位で生きて来た多くの人は、フラットな人間関係が理解できず、選民的な優越感や、人の上に立ちたい願望が抑えられません。

 現実は、シニア技術士が、資格、実績、大企業での役職などのステータスを根拠に「卓越した自分」を信じている一方、地方コンサルの人は、大手の人は外注や部下に丸投げしていて図面も書けない人達で「俺達こそ真の実力者」と思っている人も多いです。

 双方が都合よく相手と自分を評価していますが、相手の考えを変えることは不可能です。

 無駄な期待をして、摩擦を生じることは無意味です。

 賞賛されたかったら、指導する社員を顧客と考えて、価値を提供して感謝してもらいましょう。

②社長の本気度や会社の体制にこだわることに意味があるか

やたらと社長の本気度にこだわり、自分が指導する社員を徒弟制のように社長が指名することを要求する人がいます。

  確かに、社長からの業務命令として、社員にシニア技術士に師事することを要求すれば、上手くいきそうな気がします。

 でも、以前の職場で部下達が、尊敬して言うことを聞いてくれたのは、年功序列で、「組織制度的な序列」と「社内の先輩・後輩関係序列」の両方が揃っていたからです。

 

 実際に、社長命令で組織的な仕組みを作っても、社員が、意図的な怠業や不作為をして、シニア技術士の悪評をばら撒かれたら、あっという間に、社内でシニア技術士が悪者になってしまいます。

 そうなると、社長は必ず多数派の社員の肩を持ちます。

 社長の本気度や会社の体制にこだわることは、あまり有効ではありません。

③前職、大手時代のやり方を押し付けない

失敗の起こる原因として大きなものが、前職の「大手時代のやり方」を正解として、そのやり方を押し付けることです。

 例えば、医学部卒業後、大学病院の医局にずっと残って、派閥闘争で出世した医者が、60代になって「大学病院の長年の経験と実績で、レベルの低い診療所を指導してやる」と地方の診療機関に来ても役に立たないことはイメージできると思います。

 同じ医療機関でも、目的も患者(顧客)も組織も設備もすべて違うからです。

 建設コンサルタント業界も、大手と地場クラスでは、顧客(発注者)も違い、一人当たり売上も半分くらいです。組織も大手は専門特化型、地場は広く浅くといった感じですし、外注比率は低く、ほぼ内製化しています。

地場では、業務に占める検討や分析作業の比率は下がります。

 大手と地場では、建設コンサルタント業務といっても、別のビジネスと考えた方がよいくらいにやり方が違います。

 例えば、小規模な構造物で、詳細な工法や形式比較を行っても事業費はほとんど変わらないのに、比較検討に何十時間もかけたら、それだけでコストが何十万と発生してしまいます。

 そうした違いを認識せずに、国交省の大型業務のイメージで、やたら検討や分析を発注者に提案されたら、担当者は迷惑でしかありません。

 自分の理想を押し付けるのではなく、業務の目的や、相手の制約条件、実現性や費用対効果等を重視して、最適な支援をすることが重要です。

おわりに

当社のご登録者には、稀に、自分が卓越した技術力を持った「特別な存在だ」と主張される方がいます。

 そういう方は、自分は特別だから、ルールを守らなくてよいし、特別扱いされて当然だと思うみたいです。

 そのため、我々業者を馬鹿にした態度を取ったり、後出しで条件上乗せを要求したり、社長に裏取引を持ちかけたり、平気でルール違反しがちで、指摘すると逆ギレされたり、入社後もトラブルが起こりやすい傾向があります。

 その人のこれまでの「生き様」が見えるような気がしますね。

 人間は過去に成功したやり方を変えられないものですし、過去の一番良かった時を「本当の自分」と思う傾向が強く、一度上がった自己評価は、基本的に下がらないようです。

 この辺が、第二の人生への「大きな壁」なのかもしれません。

 ただ、この壁を越えて「過去の栄光」から脱却できれば、本来の能力を発揮してご活躍できると思います。

 建設コンサルタント業界では、シニア技術士の様々な「活躍の場」があります。

 実際、当社がご紹介した多くのシニア技術士は、ご紹介先で尊敬され、ご活躍されています。

 60代は、最後の挑戦ができる年代でもあり、その年齢でモチベーションがあるのは、素晴らしいことです。

第二の人生が、実り多いものになることを応援しています。

 ご参考になれば幸いです。

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