建設コンサルタント業界で、つぶしが利く・利かない専門分野について
建設コンサルタントとは、建設分野の専門家集団です。
そのため、どの会社も、組織は、専門別に細分化されています。
具体的には、構造部、道路部、河川部、下水道部といった感じです。大組織になるほど細分化し大手規模になれば、例えば道路分野だけでも、交通系、計画系、設計系、防災系、アセットマネジメント系などに細分化されていきます。
そのため建設コンサルタント技術者は、細分化された専門を持っていることになります。
転職や独立を考えた場合、一般的には、建設コンサルタント技術者は、つぶしが利きます。
業務実績と技術士を持っていれば、転職も独立も容易です。
しかし、中には「つぶしが利かない」分野もあります。
そうした「つぶしが利かない」の専門の人にキャリア開発の参考になることを述べようと思います。
1.つぶしが利く・利かない専門分野
「つぶしが利く」とは、以下の概念になります。
・全国どこでも就職できる、高齢になっても就職先に困らない
・高収入の転職先が見つかりやすい
・独立もしやすい
技術士専門区分に沿って以下に解説します。
①つぶしが利く専門分野
基礎インフラ(道路、河川)とその構造物を専門とする人、つまり、道路、河川砂防、鋼構造コンクリートの三分野を専門とする人が、一番、つぶしが利きます。
例えば、道路には、国道、高速道路、都道府県道、市町村道、農道、林道と膨大なインフラのストックがあり、それぞれに管理者がいます。
発注者は、国、高速道路会社、都道府県、地方自治体に至るまで全国にあり、大手コンサルから地方地場零細企業まで、ほとんどの建設コンサルが道路部門を持っています。
そのため、人材需要が常に多く、つぶしが利く専門分野のトップ3と言えるでしょう。
これら分野は、地理的、年齢的制約も低く、老後も技術顧問的な形で70代でも活動を続けることが可能です。
②ややつぶしが利く専門分野
次につぶしが利くのが、上下水道、農業土木、土基礎、地質、施工計画といった分野です。
上下水道は、基礎インフラでもあり、特に大都市圏において人材需要が大きいです。
農業土木も、投資規模的に少ないので、需要はやや落ちます。
土基礎や地質分野は、建設コンサルタント業務において、管理技術者要件になることが少ないため、鋼構造コンクリート等と比べると需要はやや落ちます。
施工計画分野は、CM、PPP、発注者支援といった分野で、常に人材需要は大きいです。
※基本的に、転勤だらけなのがデメリットですが
③つぶしが利かない分野
都市計画、環境(建設環境、環境部門)、トンネル、港湾空港、発電土木、鉄道、電気電子、機械等の分野は、インフラ関連における市場規模は小さく、人材需要は、大手コンサルや専門特化型コンサルのみになり、大都市部に集中して来ます。
この分野は、特に地方部においては、需要は小さいです。
また、大企業になるほど、年齢的制約も大きくなり、技術士の希少価値も薄れ、豊富な業務実績や、博士等のハイスペック人材も当たり前になってきます。
そのため大手で実績を積み、技術士を持っている人材でも、転職に苦労する場合が多くなります。
2.つぶしが利く分野なのに転職が難しいケース
道路、河川砂防、鋼構造コンクリートといった、つぶしが利く分野の技術士を持っていても転職が難しいケースがあります。
それは、「尖った専門」の人材です。
例えば、技術士(道路)を持っていても、交通計画や、アセットマネジメントや、舗装(道路会社)が専門で、専門以外は分かりません。という尖った専門の人は、人材需要が少なく、つぶしが利きません。
同じく、河川砂防でも、水理、流量解析の専門家、あるいは研究機関で研究しかしていないというような人、鋼構造コンクリートでも、専門が、橋梁上部工で、しかも鋼橋だけ、あるいはPC橋だけ設計ができますが、下部工も擁壁もボックスカルバートも分かりません。
といった感じの人は、苦戦しやすいです。
そのため、専門が細分化されている大手出身者は、苦労する傾向があります。また、建設系メーカー出身者は、自社商品の知識のみで、特にその傾向が強いです
逆に、つぶしの利かない専門である「都市計画」であっても、公園、造成、区画整理や駅前広場の計画設計ができる。環境が専門でも多自然型の河川設計ができる等、関連する設計業務にも対応できる場合、興味を持つ企業が増えてきます。
3.つぶしが利かない人はどうしたらよいか
日本の建設技術者の多くが、専門の幅が狭すぎると思います。
理想で言えば、技術士(建設部門 道路)というなら、道路分野は大体対応できるべきだと思いますし、河川や構造でも同様です。
その理由は、行政、ゼネコン、メーカー、建設コンサルタントと業界が分かれている上に、人材の流動性が低いので限られたキャリアしか積めない点にあります。
この中で、個人で対処できることは、一番需要の多い基礎インフラ、道路、河川、構造分野の計画設計部分を理解し、例えば、道路が専門なら、道路全般にある程度対応できるようにキャリアを積む上で留意していくことが重要です。
大手コンサル等においては、上流工程である研究や計画系の方が高尚・高度である感覚を持っている人も多く、また、施工時対応等の面倒くさいことの多い詳細設計は、皆さん避けたがります。
実際、私も、政策研究やシンクタンク系業務、道路の計画、予備、詳細設計まで経験がありますが、一番難しく、かつ辛いので、避けたいのが詳細設計です。
皆が避けたい気持ちも分かりますが、キャリアの幅を広げることを考えると、設計分野への挑戦を心がけ、できれば設計部での勤務経験も積んでおくべきでしょう。
また、技術士(都市計画や環境系)の人も、設計部分への対応力を付けると同時に、証明する資格、RCCM(道路や河川、構造)(できれば技術士)等を取得していくことで、転職活動の選択肢が、大幅に広がっていきます。
おわりに
技術の対応範囲を広げる、あるいはキャリアの幅を作るという行為は、これまで築き上げたものが通じない世界にいくことになるので、心理的な抵抗は誰でもあると思います。
人間、年齢が上がるごとに、保守的になりますし、気力、体力も落ちていきます。
理想的に言えば気力体力のある40代前半くらいまでに、キャリアの幅を作っておくと、選択肢も多く、余裕のある人生が歩めると思います。
ただ、当社事例では、メーカー出身で技術士(鋼構造コンクリート)ですが、構造設計の経験、知識がない方でも、60代から地場コンサルに入社し、構造物点検、補修設計等で活躍している事例もあり、需要の大きい分野に対象を絞って勉強できれば、既に技術士でもあり、1年程度で活躍できるようになるケースもあります。
きちんと戦略を立てて行えば、60代からでも、十分に可能性はあります。
※ご相談等あれば、遠慮なくどうぞ
ご参考になれば幸いです。