技術士に合格すると起こること
技術士は、名称独占資格と言われ、メリットは「技術士」を名乗れるのみです。
また、一般人に「技術士です」と名乗っても、「技術士」の世間の認知度が低いので、「すごーい」とは、普通は言われないです。
そのため、「技術士取得して意味があるか?」という質問に対して、「独占業務がないから意味ない」といった評価が与えられることがあります。
そのような世間の評価に引っ張られて、技術士受験にモチベーションが湧かない人も多いのではないでしょうか?
建設産業、特に建設コンサルタント業界において、技術士を持っているかどうかは、大変、重要な意味を持ちます。
例えば、建設コンサルタント業を開業するには、建設コンサルタント登録が必要で、そのためには技術士(建設部門)が必要になります。
また、ある程度の規模以上の業務を受注するためには、それぞれの専門(道路、河川など)を部門登録が必要で、そのため、各専門(河川、構造、道路等)の技術士を雇用している必要があります。
さらに、業務の管理技術者や照査技術者を技術士とすることが入札参加要件となっている建設コンサルタント業務もかなりあります。
つまり、建設コンサルタント会社にとって、技術士がいないと、すべてが成り立たないため、必要不可欠かつ重要な資格です。
と会社側のメリットを説明されても、建設コンサルタントの社員(個人)のメリットが実感できなかったり、「俺は実力主義」、「技術士なんて必要ない」などと吹き込む先輩もいたりで、なかなか勉強のモチベーションが上がらない人のために、技術士に合格したら起こることを、実体験をベースに挙げたいと思います。
1.社内での扱い・周りの態度
私が技術士二次試験の筆記試験に合格した時ですが、業務時間中に先輩がwebで合格発表を見て、「○○(私)が合格しているぞ」と声を挙げた途端、フロア全体が「ざわ‥ざわ‥」という感じになりました。
その時、ある上司が「ちくしょ~ぉ」と思わず叫んでしまい、飲み会でネタにされていました。
当時の私は、30代前半の若手ながら、業務はバリバリに、普通の何倍も稼いでいたのですが、一部の人から「生意気」とか「楽でおいしい業務ばかりやっているだけ」と言われたりして、なかなか社内で認められない雰囲気がありました。
基本的に、人間は、自分より優秀な後輩の存在を認めることは、心理的な抵抗が大きいと思うので、ある程度は仕方がないことではあります。
ところが、業務で好成績、技術士最年少合格と二つの要素が揃うと、皆の心の奥底で、実力を認めざる得ない効果が生まれてくるようです。
技術士合格以降の、私に対する周りの雰囲気は、尊敬と畏怖が混じったような感じになっていることに気が付きました。
こういうのは「ハロー(後光)効果」と呼ぶらしいです。
なんとなく痛快な気分でした。
2.出世・抜擢されやすい
日本的組織が、抜擢する人選において考える要素は、「実力」以外に、「皆が認めるか」、「失敗時に人選した責任を問われないか」が重要な要素です。
若手を抜擢しようとすると、多数派である「若手に抜かれる人達」は、認めがたいですし、失敗した時は「人選した責任」を騒ぎたてるでしょう。
だから、日本企業では、若手を抜擢するには、それ相応の「納得感」が求められます。
納得感の要素は、「実力」「学歴」「人望」「コネ」「資格」などの複合ですが、建設コンサルタントにおいて、技術士合格は、かなりの「納得感」になり得ます。
つまり、出世しやすくなります。地場クラスだと、いきなり経営幹部もあり得るくらいです。
私の場合ですが、先ほどの「チクショー発言」が社長の耳に入ると「男の嫉妬は、手段を選ばないから恐ろしいぞ」と言い出して、急遽、来年度は「私を部長に抜擢し、その上司を降格する」と決めてしまいました。
つまり、業務好成績、技術士合格にプラスして、上司の失言により「権力闘争を未然に防ぐ」という、正当化理由も加わり、抜擢する納得感になりました。
皆さんも、失言で自分の墓穴を掘らないように気を付けましょう。
3.仕事のやりやすさ
技術士に合格すると感じることの一つに、「仕事がやりやすくなる」ことがあります。
社内的に言えば、プロポーザル入札や、管理技術者が技術士保有者を要件とする業務は、どちらかと言えば、大きく、難しい業務であり、キャリアに繋がりやすいです。
技術士に合格することで、自然と、キャリアに繋がりやすい業務に参加する機会が増えます。
また、立場的に、リーダーとして、より主体的に業務を仕切る立場になるので仕事がやりやすくなります。
対外的には、発注者や、協力会社、関連同業者などと名刺交換する時に、名刺に「技術士」が入っていることで、一目置かれたり、信用面で効果があります。
発注者などから横柄な態度を取られることも減りますし、横柄な態度を取られても、なぜか、あまり苦にならなくなります。
私の独立当初、大手企業出身のベテランに「成功できるわけない」的ダメ出しと経歴自慢を聞かされた後で、最後に、技術士(建設部門、経営工学部門、総合技術監理部門)、中小企業診断士と書いた名刺を渡すと、相手が10秒くらい固まって、口をパクパクさせながら、名刺と顔を交互に見比べるような状態になってしまうこともありました。
結構、気分良かったです(笑)。
4.収入面
仮に年齢を30代後半として、技術士に合格できた場合と、技術士にならない場合で、生涯年収(その後、30年勤続する)を比較してみます。
社内に残った場合、月3万位の資格手当として、さらに昇進が早くなる要素を加味すると、その後30年間の平均年収差は150万位になると思います。
そう考えると、生涯年収差は、150万×30年で4500万円くらいになります。
技術士は、70代も稼げることを考えるともっと大きいかもしれません。
転職した場合、地場年収500万→800万と300万アップとすると、300万×30年で、9000万円の生涯年収差になります。
大手コンサルへの転職の場合、40歳で1000万超えもあり得ますので、地場年収500万→大手コンサル年収1000万という可能性もあります。
そうなると、平均年収差500万×30年で1億5千万円!の生涯年収差になります。
そう考えると、とんでもない金額ですね。
建設コンサルタントの技術者は、技術士試験勉強に、2000時間かけても、1億5千万÷2000時間で、勉強の費用対効果は、時給7万5千円で稼いだことになります。
こりゃ、付き合い残業なんてやってる場合じゃないですよ。
独立した場合は、年収2000万も可能性はありますので、生涯年収差は、もっと、とんでもない数値が出てきますね。
5.満足感と安心感、大きなチャレンジができる
新卒から10年以上、がむしゃらに仕事や勉強をしてきて、実力に自信が着き、技術士にも合格となった時は、道路分野の名実共にプロになれたと思い、達成感と満足感で一杯でした。
当時、建設不況かつ会社の経営危機で、年収300万台まで下がっていましたが、この道を選んだことに、後悔はなかったです。
そこから、大きな人生の保険を持ったような、妙な安心感を持ってしまいました。
これからは、面白い人生を歩むと決めました。
次の面白い展開に繋げるために、無職になって経営マネジメントの勉強(中小企業診断士の取得を目指す)を始めました。
その後、二年半も無職でブラブラしながら勉強したものの、中小企業診断士には合格できなかったのですが(笑)
二年以上無職で危機感ゼロも考え物ですが、そういう無謀な挑戦ができるのは、技術士に合格したからだと思います。
私みたいな例はレアですが、皆さんも、少なくとも、技術士に合格することで満足感や安心感が高まり、挑戦もしやすくなると思います。
6.転職の誘い等
私が、最初の会社を辞めると決まった時に、同僚に「次はどうするのか?」と聞かれた時に、「しばらく無職になって勉強する」と正直に答えていました。
しかし、なぜか社内では「本当は大手コンサルにヘッドハンティングされている」ということになっていました。
否定しても、「誰にも言わないので僕にだけ本当のことを教えてください」などと言われてしまいます。
技術士合格というのは、建設コンサルタントでは、それぐらいインパクトがあります。
その後、二年以上無職で勉強しても中小企業診断士に合格できず、貯蓄がやばくなり、就職活動を始めた時です。
仲の良かった元上司に飲みに誘われて行くと、なぜか、「上司の友人」という、私の知らないおじさんが同席しました。
その方は、某大手コンサルの道路部の部長で、熱心に入社を誘われたことがあります。
建設マネジメント系を志向していたので、結局、その話は断ったのですが、「なぜ年収900万の話を断る」と元上司に怒られてしまいました。すみません。
その後、いろいろ就職活動して、自分の希望である大手コンサルのマネジメント部門に就職することができました。36歳の時です。
そこも年収は900万位でしたが、前の会社の退職時は年収300万円台だったので、年収900万となると、給与や賞与は「こんなに貰っていいのか?」と思える金額です。
※しかも、仕事は前職より、ずっと楽なのに(笑)
「建設不況でも儲かっている会社は結構あるものだ」と思いました。
ここの会社は、給与もすごいですが、それよりも、国の研究機関に出向し、専属研究員として欧米の建設マネジメントや政策研究を仕事とすることが出来て、最高に良かったです。
しかし、二年以上の職歴空白で、こんなに良い就職ができるのは、技術士に合格していたおかげです。
7.独立
大手コンサルに転職後、二年過ぎて、中小企業診断士に合格したことで、さらに「人生楽勝」感に拍車がかかってしまい、勢いだけで、経営コンサルタントとして独立してしまいました。
しかし、現実は甘くなく、半年くらい収入ゼロでした。
そんな時に、元上司や同僚から声をかけていただいて、フリーランス的に仕事もしていました。
図化数量等はできないので、道路設計の検討部分だけ受けたり、シンクタンク系の業務だけですが、日5万位で、月単位で常駐というような話もあり、結構簡単に月100万位は稼げます。
そのため、収入に困った時に、スポットで数か月働くだけで、それなりに何とかなってしまいます。
また、ホームページ等を立ち上げおくだけで、いろんな建設コンサルから引き合いが来ます。
その時は、建設コンサルタントの技術士は、独立には最強だな~と思いました。
しかし、経営コンサルで苦戦し、技術士としてスポットで働いて生活の足しにする暮らしが三年も続くと、さすがに家族は不安になるようで、「もう三年やったのだから」と再就職圧力が高まります。
そんな時、郵便に入っていた「市の広報誌」に、「○○市役所での経験者採用募集、技術士(建設部門)、55歳まで、一次試験免除」というような求人募集が、たまたま載っていて、それを見せて「俺はいつでも正規の公務員になれる」という「パワーワード」で、家族からの再就職圧力を回避していました。
※実際に受験したことはないです。面接で落とされたりして(笑)
私に限らず、建設コンサルから独立する場合、技術士を持っていると、いろんな面で、だいぶ楽になるでしょう。
8.老後
老後は、技術士を持っていて一番良かったと思える時かもしれません。
普通の人は、会社で出世していても、定年退職後は就職先探しには苦労します。
また、天下り的なものを除き、これまでの経験を生かして、指導や管理する仕事を見つけるのは困難です。
本意ではない、慣れない、肉体的にも負担の大きい仕事に、従事している人も多いと思います。
ところが、建設コンサル出身の技術士は大変恵まれています。
冒頭でも述べた通り、建設コンサルタント企業にとって、技術士の存在は必要不可欠であり、多くの企業では常に技術士を探しています。
特に技術士の少ない、地方の中小地場コンサルタントにとっては、建設コンサルタント業務経験豊富な60代の技術士は、大変、魅力的な存在です。
多くの大手中堅クラスの建設コンサルタント出身の60代~70代の技術士が、これまでの経験を生かし、技術指導や技術管理や照査等で活躍しています。
近年は、web会議等の通信手段も発達し、地理的制約が減少し、大変、働きやすくなってきました。
そのため、経済的には年金にプラスして、顧問としての給与で余裕のある生活ができる上に、仕事のやりがいも大きく、さらに、別に副業として技術士事務所を開いたり、大学講師や社会活動をしたり、海外旅行に行ったりと充実した生活をされる方が多くいます。
理想的な老後の暮らし方といってよいでしょう。
おわりに
建設コンサルタントにとって技術士に合格すると、良いことばかり起こることをご理解いただけましたでしょうか。
私自身も、元々、技術士合格による収入面や転職等のメリットは理解していました。
しかし、満足感や安心感、能力的覚醒、視野の広がり、周りの信頼や繋がりなどから生まれる「大きなメリット」は、想像していませんでした。
何というか「目に見えない何か」に引っ張られて、行動が出来たり、機会が巡ってきたりして、自分の持つ実力以上に、幸運に恵まれたと思っています。
今回は、こうした、技術士合格が、人生にもたらす大きなメリット「目に見えない何か大きな力」について、分かりやすく表現してみました。
現在、建設コンサルタントの技術士で「俺は合格しても何も変わらなかった」という人は、本当のメリットを、生かしていない可能性があります。
もしかしたら、とんでもない、勿体ないことをしているのかもしれません。
プロとして良い仕事をして、技術士合格も目指すという、シンプルだけど難しい生き方は、達成すれば、計り知れないパワーを持ちます。
皆さんも、自分を信じて頑張りましょう。
応援しています。