建設コンサルタントの新入社員が5年で一人前になる方法

(前回の記事「建設コンサルタント業界の人材育成の実態」もご覧ください)

建設コンサルタント企業において、技術者が「一人前になるのに最低10年はかかる」という話をよく聞きます。
もし、他業種の人が「5年で一人前になれる」と言ったら、建設コンサルタント業界の人から、「馬鹿にしているのか」とか「建設コンサルをなめるな」というような反応が返ってくるでしょう。
そこで、建設コンサルタント技術者として40代まで活動し、技術士も持つ私が敢えて言わせていただきますが「5年で一人前になる」ことは可能です。

 少し自慢になりますが、私自身も入社5年目には数千万の案件を、実務はほぼ一人で回せるようになっていましたし、その後もキャリアを積んで、10年目には道路の技術士を取得しています。まだ、午前中が経験論文の時代です(業務経験重視の時代です)。

(こちらの記事も参考にどうぞ「就職先に建設コンサルタント業界を選んだ理由と、その後について」)

私以外にも同様の人物も複数知っていますし、別に「5年で一人前になる」ことは不可能ではなく、むしろ、プロとして当たり前のことだと思っています。
それは、特別な人だろうと思う人もいると思いますが、私は三流私大の工学部卒で、学生時代も成績もせいぜい中くらいです。
つまり、誰でもその気になればできるということです。

 そこで、「5年で一人前になる方法」について、述べていきたいと思います。
(この記事は2020年3月(新型コロナパンデミック)以前)に書き溜めたものです)

なぜ一人前になるのに最低10年もかかるのか

 「5年で一人前」になろうと思ったら、まず、現状の仕組みでは、なぜ「一人前になるのに最低10年」などと言われてしまうのか理解する必要があります。
その点を以下に説明します。

 建設コンサルタントの人材育成は、ほぼOJTにより実務をやりながら覚えていくものです。
「30代くらいで一人前になって40代くらいで技術士を取得し管理職になって部下を指導する。」

という成功モデルがあります。
その成功モデルで生きてきたベテラン技術者は、部下などを下につけて実務作業をさせつつ、自分は指導だけするようなやり方を好みます。
そうやって、後進を育成しつつ、業務を回します。
一方で、若手技術者も多くは、一生その会社にお世話になるつもりで入社してきます。
公務員が就職先人気であることから分かる通り、現在の若手も安定志向で年功序列の終身雇用にあこがれる気持ちは強いです。
つまり、良い会社、上司に恵まれて、会社に育ててもらい、一生懸命働く代わりに、一生面倒も見てもらいたい気持ちを持っています。独立心や野心満々の社員は、ほぼ皆無といってよいでしょう。
ベテランとしては、なるべく優秀な部下を持ちたいでしょう。そうした人を下に使えば、業務での成果も増え、その手柄はベテラン本人ですし、また仕事も楽です。
しかし、現状は、組織が高齢化しており若手が少ない状況です。いくら優秀だからといって入社5年で一人前になって独り立ちされては、本音は困ります。
いつまでも従順で、自分の下に仕えて欲しいと思っています。
若手の多くも従順に上司に仕えて、大先輩と同じような成功モデルを歩もうとしています。

 以上のような年功序列の会社のベテランと若手というのは、上司部下であり先輩後輩関係でもあり、相互依存関係となっています。メンバーシップ型組織体系というやつです。
つまり社内秩序、組織構成員の裏の総意として「一人前になるには最低10年」というルールがあるのです。
一般に優等生ほど、社内秩序には敏感で、社内の空気にすぐに染まります。
また、どれほど優秀な人材であっても、社内秩序という壁が、立ちはだかります。

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5年で一人前になる方法

覚悟を決める

 「5年で一人前になる」ということは、3年目には業務を一人で回し、5年目にはバリバリ稼いでいる状態になるということです。そうなると10年目には技術士を取得し、その後も大きな挑戦を続けて、40代には異次元にいるようなキャリアを目指すことにもなります。
そのためには、覚悟を決める必要があります。
どういう覚悟かと言うと、社内で「異端の存在」にされる覚悟です。
先にも述べた通り「5年で一人前」を目指すということは、これまでの成功モデルを否定する存在になり組織の脅威になります。
先輩を尊重し、組織の和に留意することは重要ですが、どれほど人格者であっても「出る杭」にされてしまい様々な妨害や困難な事態に遭遇するでしょう。
例えば、生意気と叩かれたり、一度でも失敗すれば、針小棒大、声高に非難され、低評価されたり、あるいは褒め殺しということもあり得ます。

 多くの人は、こうした事態に一喜一憂したり、恨んだり、戦ったり、賞賛を求めたりしてして、人生の不毛な浪費をしてしまいます。
「一人前」になることに、会社や上司に頼ってはいけません。自力で達成する気持ちで、決して流されずに淡々と自分がやるべきことを進めていく覚悟が必要です。
ネガティブな経験も人間観察して自分の資産にする覚悟です。

プロ意識を持つ

 技術者として「一人前になる」=「プロ」になるということです。「プロ」と言うのは顧客に価値を提供して、報酬を受け取る独立した存在のことです。
建設技術のプロとして、顧客に価値を提供して報酬を受け取る意識を持つ必要があります。建設コンサルタント顧客とは、公共機関であり税金を使って公共事業の一翼を担うのですから、最終顧客は、社会そのものです。
そのために業務を行う上で、「社会にとって一番良いもの」を提案する気持ちを常に持ち続ける必要があります。判断に迷ったときは、常にその原点に戻って考える必要があります。
一方、会社員(サラリーマン)はプロ意識を持たずに生きていけます。
そのため、担当者なのに他人事な態度で、必要な検討もやらず、提案もせず、何も根拠のない設計や報告書を書いて、発注者や上司に言われるままに嫌々、ダラダラ、渋々、仕事をしている人も多数います。
こうした人に染まっていはいけません。

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成果を出すための仕組みを勉強する

 いくら良い成果を納めても「発注者から高評価でしたが、大赤字でした」というのでは、企業は存続できません。プロと言うのは、顧客に対して、品質、工期を満たした成果を、所定のコストで達成し、企業に利益をもたらす必要があります。
品質(成果品)、納期、コストの三要素を満足させるのがプロです。
それには、技術知識の勉強だけではダメです。業務を上手く回す仕組みを勉強しなければなりません。
業務の最初から終わりまで、一通りを理解する必要があります。例え、下働きや業務の一部分を担当していても、業務全体を理解するように努めなければなりません。
建設事業の流れや、その業務の目的から始まって、業務計画、実行予算、実際の工程管理やコストの予実管理等、管理手法も学びましょう。
また業務契約の法的な部分、契約書は仕様書等も精通しなければなりません。

 業務を行う時は、社内での過去の類似した業務成果があれば読んでおきましょう。業務が始まれば過年度成果や、隣接工区の成果など多くの貸与物があります。こうした他社の成果を読み込み、業務をシュミレーションしましょう。
顧客とのコミュニケーションも重要な要素です。
打ち合わせにはなるべく同行させてもらい、担当した部分の説明は自分でしましょう。
如何に、無駄なく手戻りなく上手く業務を回せるのか、研究しましょう。
毎年、複数業務に関与することになります。そうやって、実践と勉強を並行して業務の上手い廻しかたを習得していく必要があります。

自分の専門技術を徹底的に勉強する

 建設技術のプロなのですから、自分が専門とする分野の技術や設計基準に精通していないと話の前提にも立てません。
暗記する必要がありませんが、設計基準全体にどういう決まりがあるのか、どのような根拠で決まっているのか理解しておく必要があります。
こうした勉強は、自主学習として時間外にやる必要があります。
まずは、自分の専門とする分野の、設計基準、示方書など読み漁りましょう。その分野で基本となる技術基準書は自腹で購入して、常に一冊は持ち歩き暇を見つけては読み込みましょう。
こうやって薄く広く網羅的に理解しておくべきです。

次に、実際の業務で関わった部分については、実践として技術的な根拠をしっかり抑えて完璧に成果を作り理解しましょう。
少なくとも、一度経験した技術には精通し、二回目は、一人で出来るようになっている必要があります。
こうやって、勉強と実務を並行して技術力を伸ばしていくのです。

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おわりに

 上記のような取り組みを5年間続けられれば、勤務時間、自主勉強時間を併せて1万数千時間くらいの、キャリアを積むことができます。
めげずに続ければ、普通の人だったら一人前になれます。
当然、楽ではないです。特に最初の数年はきついです。しかし後になればなるほど裁量範囲も信頼も増えます。ネガティブな出来事よりポジティブな出来事が増えていきます。
その結果、仕事は、より面白く、自由で、楽になっていきます。

 もう一つ、上記の話は、新入社員だけの話ではありません。例えば、30代、40代でも5年スパン位で大きな挑戦を続けることができれば、別次元への飛躍の可能性が高まります。
また、達成には当然、会社や配属その他、上司、先輩等に恵まれるかの運、不運はあります。しかし、そうした外部環境に左右されないことも重要です。外部環境の影響や対応に限界を感じたら、早めに転職等により新天地に行くしかありません。
そうした早めの決断も、自分の人生を自分でコントロールする意味で重要な意思決定になります。

 ご参考になれば幸いです。

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