優秀な新卒を採用するために考慮しなればいけないこと

建設コンサルタント会社の経営者で、優秀な新卒、あるいは中途採用でも若手の人を採用したがります。
優秀な新人を採用する上で、事前に考慮しなければならないことについて書いていきます。

(「建設コンサルタントの新入社員が5年で一人前になる方法」もご覧ください)

その1.現代の若年世代の志向


① 現在の若手世代も大部分は安定志向

 現在の人気職種を見ても、公務員、インフラ系、大企業など安定志向が顕著です。現状偏差値の一番高いグループの進路で最も多いのが、「医者」です。
一方、近年、ベンチャー企業や外資系金融やコンサルタントなどの完全実力主義で、トップに行けば若くして超高給の可能性もある就職先もあります。
しかし、こうしたハイリスク求人は、あまり人気はありません。
大体、新卒学生の9割くらいが、安定志向で、残り1割が、チャレンジ志向だと思います。
こうした分野にチャレンジする人は、自分に自信があって多少山っ気のある人達です。

現在の若手世代も多くは、親、その親(祖父、祖母)などに影響?され、年功序列、終身雇用の大企業の正社員になることへの願望は強いです。

② キャリア志向

 現在の若手の大部分は安定志向ではありますが、自分の世代で定年まで、終身雇用、年功序列の社会制度が続くとは信じていません。将来、会社がつぶれたり、自分がリストラされる可能性についても不安があります。
そのため、就職先を選ぶ基準として、「つぶしの効くキャリア(スキルや資格の取得)が積めるか」を重視しています。

 また、従属的な上下関係、先輩後輩といった関係に対して、キャリア重視する人ほど、強い嫌悪感を持っています。
意味のない下働きを嫌います。より早く一人前にしてくれる会社、計画的な人材育成制度がある会社、社内教育制度の充実している会社を好みます。

その2.建設コンサルタント業界が新人獲得で狙うべき層とは

 現代の大学の建設、土木系の学科の卒業生の進路は、公務員、大企業のゼネコン、メーカー等、不動産、と選り取り見取りです。
さらに、IT系や金融系など建設と関係ない業界へ進む人も結構います。
最近、ある旧帝大卒(建設系学科)の若者に聞いた話では、同級生の半分以上が建設と関係ない分野に進んでいるという話でした。

 では、先ほどの話で、「若者の9割が安定志向で、1割がチャレンジャー」という話ですが、安定志向の学生の内で、最も安定志向が強いグループは、まず、公務員、次が大手ゼネコンやメーカー、他業種有名企業に流れます。
大手ゼネコン、メーカーと大手建設コンサルタントで企業規模を比較してみれば、社員数は10倍以上、売上では100倍以上の差があります。ステータス、安定性とも建設コンサルタントに魅力は感じないでしょう。
よって、最も安定志向が強い層を採用で狙うのは諦めましょう。
逆に、新卒から定年まで面倒見てもらう気満々の新人は、建設コンサルタントに合わないと思います。モノにもならないでしょう。
お互いのためです。例え大手建設コンサルタントでも、この層を熱心に勧誘することはやめましょう。

次に、新人の1割くらいは存在するチャレンジャーなグループは、外資系金融やベンチャー企業に流れます。
建設コンサルタントで30歳、年収1000万以上というような会社はまずありません。また、30歳で経営幹部になれる可能性もほぼないでしょう。
また、エースになるために、業務経験を積んで、技術士も取得するという過程が必要で、本人の努力と、理想的なキャリアを積んでも最短で10年という期間は要します。
現在は、20代で成功した人の話が、ネット上にはあちこちに転がっており、チャレンジ志向の人は、キャリア形成に必要な10年の期間を我慢できません。
よって、チャレンジャー気質の人は、建設コンサルタント業界に魅力を感じません。
もし、採用できたとしても高確率で早期退職するでしょう。

 以上より、「安定志向の最も強いグループ」と、「チャレンジ志向の新人」を狙うことは得策ではありません。
建設コンサルタント会社で新人として獲得を狙う層は、全体の9割の「安定志向の新人世代の内、チャレンジャー志向よりの人材」になります。

その3.建設コンサルタント業界はどうやって新卒にアピールするか

 新卒として獲得すべき狙い目は、9割の安定志向の中で、チャレンジ志向寄りのグループになります。
つまり、安定を望むものの、チャレンジャーにも憧れがある人達です。

 こういう価値観をもった層に、どうやってアピールすべきなのか端的に言えば

アピール1:【キャリア】と【技術士】こそが「安定」も「チャレンジ」としても最強だということ

 建設コンサルタントでキャリアを積んで技術士を取得するまで、最短コースでスムーズに進んで10年必要です。
しかし、一旦、ここを達成してしまえば、「人生の保険」を手にしたみたいなものです。転職もいくらでもあり、40代から公務員にだってなれます。
年功序列の終身雇用という世界は、会社がだめになれば終わりですが、「人生の保険」を手に入れれば究極の安定を手に入れることができます。

 また、ここから、独立や、新たなことへのチャレンジも可能です。チャレンジには、リスクを伴います。しかし、「人生の保険」をもって、新たなことにチャレンジできるということは、じっくり取り組めて、成功確率が大きく上がります。
実際、私の場合も、11年道路分野のキャリアを積んで、技術士も取得し、その後、マネジメントの勉強、大手コンサル転職、建設マネジメント研究、独立し経営コンサルタント(人材紹介業)と進んできました。

本格的なチャレンジ志向の人は、最短で10年のキャリアと技術士取得ということは、我慢できません。また、後から有用性に気付いてもマネできることではありません。
10年のキャリアと技術士という最初の関門をクリアすれば、それを生かして、さらにもう一つキャリア(専門)と積み重ねることで、希少性が生まれて競合の少ない世界で生きることができます。
人生、二毛作、三毛作と、いろいろチャレンジができると思います。

 でも、新卒勧誘で、「キャリアと技術士で転職自在、公務員にもなれますよ」なんて言うのは、難しいかもしれませんが、表現として工夫して取り組むべきだと思います。
※建設コンサルタント業界全体で取り組むべきことだと思います。当コラムも大学生が結構見ているようなので、少しでも業界に貢献できていたら光栄です。

アピール2:最短コースでキャリアが身に着く仕組みがあること

建設コンサルタント業界に興味を持った新人に、自分の会社を選んでもらう必要があります。
新人が建設コンサルタントに進む第一の目的は、キャリアを積んで技術士を取得することにあるのですから、最短コースで達成できる社内教育制度があることをアピールすることが大変有効になります。
「“”OJT”と“資格取得支援”しています。」というのでは、配属先任せみたいな感じで現実味がありません。

10年でキャリアと技術士を取得するには、5年目にはとりあえず一人前、バリバリ業務をこなせるようになっていなければなりません。
それが達成できる教育制度を持つと共に、具体的なイメージができるようにしなければなりません。そこに厳しさがあってもかまいません。

現実的には、そのような教育制度を持った建設コンサルタントは存在しないと思います。
しかし、ここが最も簡単に他社に差別化できるポイントで、しかも、企業の発展に直結する取り組みです。
経営者の皆さま、是非本気で取り組んでいただきたいと思います。

アピール3:成果に応じた報酬を貰えること

 現在の20代は、もう自分の代では、年功序列の終身雇用が続くとは信じていません。
若い頃は滅私奉公して、その報酬を中高年になってから受け取る仕組みでは、納得できません。
例えば「5年目で一人前で業務をこなして400万」とか、「30前半、エース級で500万」という報酬では、まるで中高年を養うために働いているみたいな気分になるでしょう。
一人前になってからは、成果に応じた報酬を受け取りたいと考えています。
また、人間ですから自由を望みます。
一人前になってからは、プロとして責任を負う代わりに、より自由度の高い生活をしたいと考えています。
「毎朝集まって朝礼」とか、「上司より先に帰ると睨まれる」とか、無駄な会議、従属的関係を強要されることを嫌います。
そのため成果に応じた報酬を受け取れ、働き方の多様化をする仕組みが重要になります。
この点の実現は、年功序列的な会社は、非常な困難さが伴います。相当強いトップダウンでないと不可能です。
まあ、どこの会社も自称「実力主義」なんですが。

アピール4:建設コンサルタントの業務のやりがい

 これまで、「安定」とか「収入」といった個人のメリットを中心にアピールポイントを書いて来ましたが、そこだけ重視する人が来ても困ります。
建設コンサルタントで、技術のプロを目指すのですから、建設コンサルタントのやりがいを理解して、チャレンジする意欲のある人に来てもらう必要があります。

建設プロジェクトというのは、仕様決定段階(研究、企画、調査、計画、設計)、施工、維持管理というフローになります。
建設コンサルタントというのは、技術のプロとして、社会資本形成という、公共の安全や利益の増進のための事業の中で、主に仕様決定段階で活動し、さらに、施工監理やアセットマネジメント(維持管理最適化)等、建設プロジェクトのフロー全体での活動も増えています。

いろいろな職業の中で、「仕様決定段階に強く関われる仕事」というのは少ないと思います。
公共事業は、国民の貴重な税金を使って行うですから、社会貢献意欲をもって、プロとして活動するやりがいに溢れています。
ネットの情報では、ネガティブな情報に溢れており、実際につらいことも多いですが、やりがいの部分を理解してチャレンジする人を集めるべきです。

以上のまとめとして、建設コンサルタントで技術のプロになろうという意欲のある人を、しっかり育てて、成果に見合った報酬を払い、より多様で自由な働き方を認めることで、本来持っている力を100%発揮し、会社も個人も両方ハッピーに永く活動できる会社にすることが、優秀な新人採用において、またその後の定着にも重要になってきます。

 ご参考になれば幸いです。

優秀な新卒を採用する方法(具体的方法編)に続きます。

他の記事もよろしければお読みください。

就職・転職は「運」 新入社員時代の思い出

いつまで年功序列と終身雇用が続くのか(建設コンサルタント業界編)

20代の技術士合格者が増えている件【建設コンサルタントの将来像とは】

このコラムをシェアしていただけると嬉しいです。