会社への出戻りについて【カムバック採用】
最近は、一度辞めた会社に再就職できる制度「カムバック採用」の導入が大企業を中心に広がっています。
大体が、年齢制限や退職後5年程度の期限を設けているケースが多いようです。
昔から、稀にある出戻り就職を形式化したようなものですが、こうしたカンバック採用について、どのように考え利用すべきなのか、社員側、企業側の視点に立って考察してみます。
現代の離職事情
①離職率
現状、全産業平均で、新卒入社3年後(大卒)の離職率は30%を超えています。
これまで大企業と中小企業との離職率に差があったのですが、最近は1,000人以上の大企業でも3年離職率25%と差が縮まる傾向にあります。
入社10年後で考えると、半分近くは離職しているのではないでしょうか?
ちなみに、公務員の離職率は民間の10分の1だそうです。
それでも最近は増加しているみたいですが
※参考コラム:公務員の転職希望者が急増している件
②離職原因について
退職希望者に理由を聞いても、多く人は「引き留め」の糸口にされないように「一身上の都合」という回答をします。
本当のところの離職理由は、本人も曖昧なケースが多いと思います。
大体が、「将来展望」、「労働環境」、「処遇の不満」、「トラブル」等の合計が限界値を超えた場合に離職という行動を起こすことになりますが、「現状の閉塞感」を理由に「あまり不満がないけど辞めたい」というケースもかなり見られます。
企業側のカムバック採用の導入の経緯
社員の出戻りを認めることは「戻れるなら転職してみるか」という感じで、気軽に中途退職する人が増えるリスクが企業側にあります。
また、日本社会では、中途退職者 = 裏切り者、負け犬であって、出戻りを認めるなんて本来は、許されない行為です。
中途退職者の増加リスクがある上に、企業の倫理的にも許されないのに、なぜ企業が「カムバック採用」を導入せざるを得なくなったのか、経緯を説明します。
①年功序列、終身雇用が崩壊した?
どこの会社も、「わが社は実力主義」とか「日本的ジョブ型雇用」などと表向き「新しい組織感」を見せていますが、実際は、ある程度の規模の日本企業のほとんどは、年功序列、終身雇用のメンバーシップ型組織です。
社会構造が作られる基は法制度ですが、労働法等の規制緩和は、議論すらタブー視されており昔のままです。だから、組織も実態は、昔のままなのです。
信じられない人は、主だった上場企業の常任役員や執行役員を調べてください。ほぼ、プロパー出世組か、役人、銀行等からの天下りで構成されています。
つまり、経営管理層が、外の世界を知らず、メンバーシップ型組織だけで生きて来た人達で構成されています。
長いものに巻かれて社内政治を勝ち抜き、代々先輩に選ばれてその地位に辿りついた人達が経営意思決定している組織で、新しいやり方などできるはずがありません。
よく、非正規職員の増大をもって「年功序列が崩壊した」と主張する人がいますが、非正規雇用の増大は、むしろ、正社員内だけのメンバーシップ構造を存続するための方策です。 「非正規 = メンバーシップ外」の存在であり、現代の身分制度みたいなものですね。
そうした企業の40代以上のサラリーマンにしてみれば、メンバーシップ組織が崩壊し、組織がフラット化して自分の役職がなくなったり、実務に戻ったり、後輩が上司になったり、給与が下がったり、リストラされるなんて悪夢です。
若手社員には、自分達がやってきたように、文句を言わず会社と先輩に奉仕しほしいのです。
そして「よい上司」として尊敬され、褒めたり怒ったり、会議したり、飲み会をして日々を過ごして、年金が貰えるまで会社にいたいと思っています。
そこで、若手には会社に忠実に仕える恩恵として、年功序列と終身雇用の安定と会社のステータス、福利厚生などの数々のホワイト特典を提供してご機嫌を取って来たのです。
②入社後に、失望する社員達
就職活動時に学生の多くは、会社説明等で行われる「終身雇用」でありながらも、わが社は実力主義」「先進企業」のアピールを、本気で信じてしまいます。
ところが、入社後、数年経つと、旧態依然のコテコテの年功序列、終身雇用の日本企業であることに気づいてしまいます。
さらにネット上には挑戦して成功した人の話が、星の数ほど転がっており、「俺にも別の良い世界があるのでは」という内心の思いが膨らみます。
そんな思いを膨らませつつ、年数が過ぎると仕事に飽きて、将来も見え、燃え尽き状態になる人も多いです。
結果、辞めることになります。
最近は、「会社がホワイト過ぎる」とか「仕事が楽過ぎる」「キャリアにならない」というのも転職理由になるようです。
中高年から見ると、これほどの正社員ステータスと安定とホワイト労働環境を提供しているのに、離職理由が「会社がホワイト過ぎる」、「働く意味が見つからない」、「環境を変えてみたい」とか、わけ分からんという感じです。
③幸福論の世代ギャップ
このように、現代の大企業の離職増の原因は、幸福論の世代ギャップにあります。
会社の上層部は、ホワイト企業、大企業社員のステータス、安定、福利厚生を提示すれば、若手は満足すると思っています。
一方で、現代の30代以下の若手では、一生一つの会社に勤めて、結婚して、30年ローンで新築戸建てやマンションを買って、新車に乗ってという感じの「昭和の幸福論」を会社に提示されても魅力を感じない人も多いですし、また、自分の代までメンバーシップ型雇用が続くと信じていません。
結果、チャレンジ精神にあふれる優秀な人から辞めていきますし、外の世界で生きていけない人ほど、会社にしがみつきます。
④中途退職者に対する日本企業の作法
これまで辞表を出した社員に対して、以下の行為が行われてきました。
・「世の中そんなに甘くない、絶対に失敗する」的な不安を吹き込み、退職を諦めさせる。
・それでも辞めようとすると、無責任、裏切り者的な扱いで糾弾
・有給休暇の消化拒否や、退職金を激減するなど嫌がらせをする
・社内的には「使い物にならなかったから辞めた」的な「負け犬」の烙印を押す。
こうすることで
・みせしめ的な恐怖を、社員に植え付け連鎖退職を防ぐ
・無能の烙印を押すことで、部下に離職された上司の責任を回避する
・辞める奴をみんなでいじめてストレス解消(共犯者になり離脱できない集団心理)
・同時に有能な人材を失った悔しさも回避できる(すっぱいブドウってやつですね)
ということが、達成できます。
しかし、引き留めに応じて会社に残った場合は、元々感じていた「閉塞感」にプラスして「夢を諦めた失望感」と「会社への忠誠度の減点」を受けた形になり、会社の居心地がさらに悪くなります。
結果、心身を壊すか、モチベーションもモラルも無くなって、同様の人達と徒党を組んで、働いているふりをして、愚痴ばかり言って過ごすようになります。
一方、引き留めに応じず退職した人は、「裏切り者」と「負け犬」の烙印を受けた上に、様々な嫌がらせを受けますので、会社を恨みます。
結果、退職後に、顧客を奪ったり、ネット上で悪評を流したり、同僚・後輩社員の引き抜きを平気でやるようになってしまいます。
⑤カンバック採用を認めざる得ない状況
結局、ホワイト企業化して、ステータスと安定を与えても、優秀な人ほど辞めます。
また、退職希望者に、昔ながらのやり方で、引き留めや嫌がらせをしても、労働意欲ゼロの社員層を肥大させるか、外部から悪評を流されたりして、マイナス面ばかりが、目立つようになってきました。
そうなると、メンバーシップ型組織が維持できなくなる危機です。
そこで、以下のように考え方を変えました。
・離職者いじめをやめて、出戻りも認めよう
・出戻りは即戦力として期待できる
・有能かつ従順な人材だけ出戻りを認めれば、採用にリスクがない
・出戻り後は、身の程をわきまえて、迷いも出世願望もなく扱いやすい
という感じが「カンバック採用」が広がっている経緯だと思います。
※勝手な妄想です。
カンバック採用を利用する際の留意点
①出戻り後は不遇になる可能性が高い
年功序列企業の人事評価は、数十の職位ステージを、毎年、少しずつ昇進する仕組みです。
出戻りは、他社経験が経験年数としてカウントされないので、例えば3年後に出戻ると、3年後輩と同じ職位になります。つまり、同期と差が付けられています。
そこで、最近は、他社経験も考慮し、出戻っても同期と差がつかないようにしている企業もあるようです。
しかし、日本企業の人事評価は減点主義であり、また、企業の公式組織より、同期、先輩・後輩等の人の繋がり、非公式組織が強大なのが特徴です。
社内の非公式組織からしたら、出戻りは、会社を裏切り、外の世界でも負けて戻って来た存在です。 恐らく、そういうレッテルが張られるでしょう。
結果、社内制度上の不利がなくても、様々な不遇な扱いを受ける可能性が高いです。そこは覚悟しましょう。
②「カムバック採用」は「心の保険」に使える
逆に、多少の不遇さえ覚悟すれば、「カムバック採用」は、結構使えます。
誰でも、リスクのある挑戦をするときは、不安になるものです。
そんな時、「心の保険」があると、とても心強く、挑戦がしやすくなります。
失敗しても、元の会社に出戻れる「カムバック採用」は、かなり「心の保険」になるはずです。
皆さん積極的に活用しましょう。
③どうせなら大きな挑戦をしよう
離職において、二つの大きなパターンがあります。
一つは、現職より大きな会社、ステータス、安定、給与等を求めて転職するものです。一般的には、多くがこのパターンを狙います。
確かに、さんざんや嫌がらせをしてきた元同僚達を悔しがらせることができます。
二つ目は、プロ志向・キャリア志向の離職です。
どこでも通用する、大きな価値を出せる人材になることを目的として離職するもので、そのためにキャリアを積める企業、あるいは独立等も考えられます。
この場合、中小企業への入社だったりフリーランスだったりして、収入や社会的なステータスが低下し、一時的に不安定になるケースが多いでしょう。
こうなると元同僚達から「落ちぶれた」と馬鹿にされます。
そのためこの選択をできる人は、少数派と言えるでしょう。
どうせやるなら、プロ志向・キャリア志向の離職を勧めます。
なぜなら、キャリアを積んで、どこでも通用するプロ人材になることは、究極の安定と自由(経済的、時間的)を達成できるからです。
プロ人材は、独立でも転職でも自由です。その気になれば、普通じゃ考えられないような企業にも入れてしまいます。
例えば3年間、仕事と勉強に没頭すれば1万時間くらいのキャリア投資ができます。
それだけやれば、多くの人は「プロ人材」に到達できると思います。
私のこれまで出会った人達で、そういう世界を知ってしまった人達は、「どうしてもっと早く気付かなかったのか」と口を揃えていいます。
もう既に、カムバック採用による「人生の保険」があるのに、同じような大きな組織、安定とステータスを追い求めて転職するのは、他力本願的で、大きな人生の機会損失な感じがしてしまいます。
④出戻りした場合でも、一味違う能力を発揮しよう
仮に3年後に、やはり「前の会社が良かった」と感じて「カンバック採用」を使って出戻るような場合も考えられると思います。
先に述べたように、出戻りの社内評価は、「会社を裏切り、外の世界で失敗して戻って来た人」です。制度的に不利がなくても、不遇になる可能性が高いです。
その不遇をひっくり返す方法があります。
それは、特定分野での専門家、プロ人材として戻ることです。
3年あれば、1万時間を外の世界でキャリアを積んでいるはずです。
当然ですが、専門分野の業務実績や、能力証明としての難関資格などを保有しているべきでしょう。
そうしたプロ人材が専門家として企業に戻って成果を出し続ければ、そうした不遇をひっくり返すことができるでしょう。
それでも不遇の状態が続くようなら、今度こそ見切りをつけて、外の世界に飛び出せばよいだけの話です。プロ人材なら、選択肢はいくらでもあります。
企業側はどう活用するか
優秀な人ほど辞める状況の根本原因は、現状のメンバーシップ型組織ではプロ人材になるのが困難であり、さらに企業内でプロ人材的な生き方ができないことにあります。
プロ人材というのは、顧客に価値を提供して、それに応じた報酬をいただく存在です。
そして、より価値を認めてくれる場所で、新たなチャレンジをしたくなるものなのです。
年功序列のプロスポーツ球団がないことから分かる通り、やってもやらなくても結果は大して変わらないし、クビにもならない世界は、プロ志向の人間とは相容れません。
そのため、どれほどホワイト化しても、プロ志向の優秀な人材の離職を止めることは、できません。
しかし、現状の経営者は、必要性は理解していても、メンバーシップ型組織の根本だけは変えられないと思います。
それでも短期的にやれることとして以下のようなものが考えらます。
・プロ人材専門の高給ポジションを増やす。(上司より高給な)
・マネジメントクラスの外部人材、カンバック採用の人材の比率を高める
また、最近はアルムナイ(同窓生)制度といって、会社を辞めた人間との人的ネットワークを作り、お互いに交流したり情報交換したり、新たな挑戦の支援をする制度を導入する企業が増えて来ました。
ライバル会社に転職されるくらいなら、積極的に独立等を推奨し、出資等の支援もしたり、協力企業として活用したり、社内でフリーランスとして使うというやり方で、お互いのwin-winな関係を継続できる可能性があります。
先進企業では新事業を行う場合に、社内に新事業部を設立するのではなく、別に新会社を設立し事業を行うやり方が主流ですが、このようなやり方をする場合もアルムナイ制度のような外部人材ネットワークを会社が保有していることで、かなり機動的に新会社を立ち上げることができるはずです。
既存のメンバーシップ型組織でも、組織外に新たに作る組織であれば、社内の反発を抑えて、本当の先進的なやり方も実行できる可能性があります。
※新会社のポストを中高年管理職の天下り先にしてしまう例もありがちですが。
おわりに
現状の「カムバック採用」制度の広がりは、現状を維持するための「苦肉の策」的な感じがしますが、社会の変化が止められない証でもあります。
カムバック採用制度は、いざとなったら逃げ込める「安定した職場」を確保した上で挑戦できるおいしい制度です。
老後の後悔で一番多いのは、「あの時、挑戦すればよかった」らしいです。
みなさんも、将来後悔しないように、行動しましょう。
ご参考になれば幸いです。