技術士が独立して食べていく方法【建設部門以外】
技術士は、エンジニア資格の最高峰などと言われますが、独立したらどうやって稼ぐのか? 食べていけるのか?という問いに対する明確な回答がありません。
その理由の一つが、技術部門が多岐に渡る上に、名称独占資格であり、他の士業にある独占・定型業務的な安定収入を期待できないことにあります。
個別の成功事例は、書籍やネット上で、いくつか確認できても、そのやり方に再現性があるとは限りません。
この中で、唯一、建設コンサルタント等の技術コンサル業界においては、コンサルタント市場が確立しており、再現性のある独立方法は、ある程度は確立しています。
※参考コラム:建設コンサルタントの技術士が独立して稼げるのか
では、技術コンサルタント以外(製造業など)の技術士は、独立して食べていくための方法論があるのでしょうか?
全部門に共通して、○○技術士事務所という形で食べていくための方法について、述べたいと思います。
技術士事務所の実態
○○技術士事務所という人の名刺やホームページをみれば、大体が大企業等での実績や経験、書籍出版、大学講師、NPO理事、公的機関のアドバイザー、行政の委員などキラキラの肩書です。
中には、SNS等で稼いでいるアピールをしている人もいます。
これらの実態は、技術士業で稼いでいる人は少数派で、多くの人が開店休業状態です。
肩書については、大学講師は、あちこちで募集されていますし、書籍もお金を出せば出版できます。公的支援機関の登録専門家も技術士があれば登録可能です。
肩書は、いくらでも取り繕うことが可能です。
また、顧問等を持っているケースも、実態は、大企業等の天下りで年功序列の延長戦をやっているだけで、本当は、顧問先から何も期待されていないケースも多々あります。
まあ、大体は、ご本人は周りから尊敬されていると思っていますが。
「稼いでいるアピール」もいろいろありまして、よくあるのが、株式投資益や不動産の家賃収入等を含んだ、すべての収入をもって「稼いでいるアピール」をしているケースです。
また、過去の一番良かった時の瞬間風速的な年収をアピールするケースもみられます。
最悪、まったくの虚構の場合もあります。
つまり、一見、目標にするような「キラキラな人」も、実態は違うケースが多々ある点は、気を付けましょう。
なぜ多くの人が稼げないのか
なぜ多くの技術士事務所は、肩書だけ取り繕って、実態としては開店休業状態なのでしょうか?
こうした人達の多くは「僕は営業経験がないから仕事が取れない」と答えます。
「卓越した技術力」はあるけど、仕事の取り方が分からないという考えです。
また、独立する時に、多くの人が「どうやったら仕事が取れるのか?」を一番気にしますね。
こうした発想が、根本的な勘違いなのです。
普通の人は、「ビジネスとは、営業が仕事を取ってきて、技術部が仕事をする」という認識を持っています。
また、毎月給与が支払われ、残業すれば残業代も出て、賞与も貰えて、年齢と共に、毎年昇給も昇進もすることを当たり前に思っています。
地位と年齢に応じて、自分が存在するだけでお金が湧いてくる感覚になっています。
その感覚が抜けないから、こうした人達の営業方法は、学歴、元の所属企業や役職、実績、資格等のステータスを並べて、「僕は、こんなに価値があります」と名刺やホームページでアピールしたり、知人に挨拶周りするだけで、その権威に感心して、お金をくれる人が現れると思っています。
しかし、それでは、いつまで経っても顧客が現れることはありません。
奇跡的に仕事が取れても長続きしないでしょう。
一方、顧客(企業)側が、技術士に仕事を依頼する理由は、何か「困りごと」があるからです。
例えば、「この問題」が解決できたら、売上が1億伸びるとか、何千万円コストが削減できるというようなことです。
経営者は、問題が解決した結果、企業の利益が毎年1千万円増えるとなれば10年で1億円の利益増となると考えています。(これを期待利益と呼びます)
もし、会社の「困りごと」を解決できるコンサルタントがいるなら、1千万くらいの報酬は払ってもよいと考える人もいるでしょう。
依頼先を探す場合は、まずはwebで「困っている問題」を検索してみます。
※決して「技術士事務所」と検索することはありません。
すると、「その問題を解決します」という会社やコンサルタントが無数に見つかるでしょう。
しかし、それぞれのサイトを見てみると、無資格で怪しいとか、実績アピールが嘘くさいとか、コラム内容が薄っぺら過ぎて実現性が低そうなところばかりです。
そのような中で、選ばれるのは、以下の要素が揃ったものになります。
・問題解決の具体的イメージが湧く提案、コラム等があるもの
・その課題解決の実績があること(サラリーマン時代の実績は、効果薄い)
・コンサルタントの経歴や有資格者等の存在(信用)
それでも実現性リスクが残るので、その分を割り引いて500万位で発注する感じになります。
つまり、顧客の期待利益(1億)のために500万のコンサル業務が生まれます。
多くの人が、仕事が取れず開店休業状態の理由は、「営業力がないから」ではなく、顧客から見て、価値(問題解決能力)が感じられないからです。
過去のステータス等は、信用面でプラスになりますが、それ自体に顧客にとって価値はありません。
独立する上で重要な三要素
①サラリーマン意識からの脱却
まともなビジネスというのは、すべて「顧客に価値を提供して報酬を頂く」ことで成り立っています。
技術士として独立するいうことは、例え個人事業でも、自分自身が経営者になることです。技術のプロとして、顧客に価値を提供して報酬をいただく意識に転換する必要があります。
ここでいう「価値」とは、「自分が思う価値」ではなく「顧客の価値」です。
過去の肩書やステータスへのこだわりを捨て、マーケットインという発想で、顧客の抱える問題や、利益増大の課題に注目し、自分が提供できる価値を磨いていくことに、全力で注力していく、そういう意識を持ちましょう。
②三つのやるべきこと
「顧客に価値を提供して報酬を頂く」ことが、出来れば、独立して食べていくことができます。
でも独立後に即、その状態になる人は稀です。
食えるようになるためには、独立後に、以下の三つの作業を、愚直に継続して作り上げていくことが重要になります。
・「顧客が困っていること」「顧客にとっての価値」を見つける
・顧客に提供する「価値」を創造する(自分の商品、メニューを作る)
・情報発信(顧客認知および問題解決に実現性を感じさせる)
③長期戦を覚悟
失敗する大きな原因が、短期での成功を目指すことにあります。
独立してみれば分かりますが、肩書を失い、収入も減った状況は、不安が大きいです。
また、当初想定と違うことは頻繁に起こります。むしろ「思ってたのと違う」ことばかりです。
短期間での成功を想定している人は、半年~1年もその状況が続くと、大体が挫折してしまいます。
ワーストケースとして、ある程度、稼げるようになるまで3年くらいは掛かる想定をした計画(行動や予算)を立てましょう
年間労働時間2,000時間、いろいろ考えたり勉強する時間が1000時間とすると、年間3,000時間、3年で一万時間近く、将来の価値投資(②の三つのやるべきこと)に使えます。
だから、3年間継続できれば、技術士であれば、ある程度は稼げるようになるはずです。
※仮に失敗しても、好待遇の「再就職の誘い」が来ると思います。
具体的な手順(開業~食えるようになるまで)
①まず独立し周囲に挨拶、肩書を取り繕う
独立前に働きながら、あれこれ調べたり準備する人がいますが、それは「独立しない理由探し」か「取らぬ狸の皮算用」のどちらかになるだけで、あまり意味がないことです。
そんなことに年数を費やすくらいだったら、まずは、さっさと会社を辞めて、独立しましょう。
※準備で重要なのは、しばらく無収入で動ける資金の確保だけです。
独立したら、ホームページ(月1000円のもので十分)、名刺を作成し、過去の経歴、実績や資格等、得意分野などを書き込んで、一応の見栄えを作りましょう。
事務所は、自宅兼事務所かコワーキングスペース(月数千円~)で十分です。
とにかく大きな初期投資は控えましょう。
それと、同時に、過去職場の同僚や先輩、後輩、知人等に「独立の挨拶」をします。
営業ではなく「独立しました」という挨拶だけで結構です。
設計業や技術コンサル分野出身だったら、引き合いがどんどん来て、それだけで「食える」ようになることが普通です。良質な協力会社はどこも欲しがります。
もし技術コンサル出身で、この段階で引き合いがないようなら「自分の実力」は疑った方がよいです。自己客観視は辛いことですが、貴重な体験です。
メーカー等の技術サービス分野以外の出身者の場合、この時点で仕事の引き合いが来ることは稀です。
ここで落ち込まないようにしましょう。
②情報収集や下積み
まずは、技術士や技術コンサルタント、独立フリーランスの人達がどうやって食べているのか、そうした人達の世界を知る必要があります。
そうした人達のコミュニティに入ること、また、深く理解するためには、実際に下積みとして仕事をしてみることが一番です。
考えられるものとして、以下のものがあります。
・独立している知人に相談
・技術士会の活動、その他、独立した技術士のコミュニティへの参加
・行政の中小企業支援機関の専門家登録や、公募への応募
・士業、プロコンサルタントの養成塾(お金は結構かかります)
・顧客とする業種の協会への参加
・コンサルタント、フリーランス紹介会社への登録
以上のような活動を通じて、同業者の繋がりを作り、下請け、孫請け等で働いてみて、収入を得つつも、その世界への理解を深めましょう。
仕事の引き合いに対して、食わず嫌いはしないで、いろいろと挑戦と小失敗を積み重ねて知見を集積していくことが重要です。
この段階で注意することは、独立後は、肩書を失って心細い状態にあります。この時に屈辱的な扱いを受けることは、よくありますし、自分を大きく見せようと痛々しい振る舞いをしがちです。この辺は人生勉強だと思って一喜一憂せず、淡々としていた方がよいです。
また、カモにしようとするような人達も寄ってきますので、相手の見極めが重要です。
逆に、下積み希望の新人の中には、他人のノウハウや顧客を盗むようなことを平気でやる人がいます。例えば、下積み先の顧客リストを手に入れて、顧客に直接営業をかけて下積み先の顧客を奪ったりする行為です。
サラリーマンは、ビジネス上の利害関係の機微に触れる機会が少ないので、「他人の利害に鈍感」で本人は全く悪気がないケースが多いので困ります。
周りの人間のビジネスの利害関係を理解するように努めましょう、下積みをやるときは、機会をいただいた先輩や企業に対して、不利益になることはしないようにしましょう。
下積み段階では、売上や利益は、あまり気にする必要はないです。
逆に、この段階で「売れる」と、その状況から抜け出せなくなり、その後の伸びがなかったり、次の展開への移行時にトラブルが多かったりします。
下済みの主目的は、その世界を理解することであって、序列に、あまり深入りしないことをお勧めします。
③研究や情報発信
情報収集や下積みで試行錯誤を続けていれば、1年で家計の収支の赤字がなくなり、3年目にはサラリーマン時代の収入を超えるくらいは普通です。
1~3年近くも経つと、慣れてきますし、やっていける自信が付きます。さらに、周りの状況も見え、顧客のニーズやビジネスチャンス、もっと稼ぐ方法、あるいは「自分が本当にやりたいこと」などが分かるようになります。
そうした顧客ニーズやビジネスチャンスについて、ある程度、収益を犠牲にしても研究しましょう。
それら研究成果や、これまで得られた体験や知見について情報発信していきましょう。
発信方法は、コラム等を、ブログやホームページ上で発信していく方法が考えられます。
また、対象とする業種の業界紙にコラム等を出稿していくことも効果があります。
コラム内容は、顧客層の興味を持つもので、幅を持っていた方がよいでしょう。
トラブルや失敗談等なども、多くの人の興味を惹きますし、読者の参考にもなり人気があります。特定の個人や組織を否定や攻撃しない範囲であれば大丈夫です。
また、顧客ニーズや困りごとに対して、問題解決をイメージできるようなコラムが書ければ、直接受注の可能性が高まります。
こうしたコラムの執筆にチャレンジしましょう。
※ただ、虚構の実績等をアピールするのはやめましょう。
④直接受注等の開始
前記の①~③を粘り強く、数年行っていれば、下積み等で実績や信用が出来ており、また、情報発信のコラム等は100本程度になると思います。
そうなると、ターゲットとする業界等では知名度が出てきますし、ファン的な人達も出てくるはずです。
さらに、いろいろな要望や相談が来ていておかしくありません。
そうした中から、自分が力を発揮できるものや、有望なものを見つけて、顧客の要望に応えていきましょう。
そうやって、独自メニューを充実させていきます。
メニューは、「セミナーコース」「コンサルティングコース」などを組み合わせるのが上手くいくコツです。
こうした、ニッチ(すきま)市場でも確固としたニーズがあり、オンリーワン的な解決能力がある人が、直接受注する形はとても高単価になりやすいです。
ただ、個人の場合、時間的、マンパワー的制約があります。
忙しくなってきたら、まずは、これまでの下積み活動等を縮小しつつも、より有望なものに、自分の活動時間を集中していきましょう。
すごい人は、たった一人で、年間数千万くらいまで稼げる人もいます。
個人事業として一杯になれば、信頼できるパートナーを作って協力してもらったり、法人化して人材を雇用していくような発展も考えられます。
そこから先は、自分の望む選択肢に進んでいけばよいでしょう。
稼ぐ裏技について
前記の「具体的手順」を見て、3年頑張るなんて大変過ぎる。何かもっと、簡単に儲かる「おいしい話」はないのか? というご要望にお応えして、とっておきのものを一つ紹介します。
それは「補助金・助成金」を絡めたビジネスです。
日本では、省エネ、ものづくり、事業再構築、新事業開発、DX化などなど課題に取り組む企業を支援するための、様々な補助金があります。
企業の「課題解決」と「補助金獲得」をセットにした支援メニューというのは、企業からしてみれば、役所から数百~数千万の補助金を貰えることもあり、技術士への依頼のハードルは大きく下がります。
また、最近はリスキリング等で、企業に教育関連の助成金が出ています。
企業向けのセミナーや研修会などに対して助成金を活用すれば、高単価の企業研修コースの受注の可能性が高まります。
補助金、助成金を活用した企業課題解決のためのメニューを研究しましょう。
また、他の士業、税理士、社会保険労務士や行政書士、中小企業診断士等との連携も有効です。(顧客を紹介して貰える)
独立技術士等で、「何千万も稼いでいる」、「完全成果報酬」、「他の士業との連携」を謳っているような人は、補助金、助成金の類で稼いでいる人が多いと思います。
確かに、補助金コンサルの「役所からお金を貰いましょう、報酬は獲得額の10%」みたいなビジネスモデルは、簡単に稼げてしまう可能性があります。
そこで、本来の目的である企業課題の解決を忘れて、単なる補助金ブローカに堕ちる人も多い世界です。
みなさん、気を付けましょう。
※長年続いた補助金バラマキ政策もそろそろ終末に近いと思います。
※参考コラム:秒速で1000万円稼ぐ中小企業診断士
おわりに
技術士(コンサル出身以外)が独立して食べていけるようになるための必要な手順を書いてみましたが、いかがでしょうか?
三年計画ということに失望した人も多いと思います。
でも、未経験のサラリーマンが資格を取得しただけで独立してすぐに収益化できるなら、新規参入も多いはずで、魅力は薄いと思います。
また、試行錯誤をしている独立後の数年間は、後から思えば人生で最も楽しかった、あるいは充実していたと感じるケースが多いと思います。
第二の青春ってやつですね。
「営業経験がないから」、「コンサル経験がないから」と諦めるのは早いです。
「人行く裏に道あり、花の山」という格言通り、皆が挑戦しないからこそ、チャンスがある世界が広がっています。
独立願望があるなら、せっかく技術士を取得したのだから、行動しましょう。
ご参考になれば幸いです。