いつまで年功序列と終身雇用が続くのか(建設コンサルタント業界編)

 勤労に対する報酬は、大きく二種類に分けられます。一つ目は、終身雇用、年功序列を前提とした報酬体系、もう一つは成果報酬です。

 終身雇用と年功序列を前提とした報酬体系ですが、ある程度の規模以上の建設コンサルタントは、ほとんど該当します。
大体どこの会社も「うちは実力主義だ」とか「成果重視」などと言っていますが、実際は、終身雇用と年功序列をベースとしています。
年功序列は、職能性と呼ばれ、経験年数が増えるほど能力が高いことを前提として賃金体験が決まります。つまり先輩ほど給与が高く、偉いのです。

 賃金制度の仕組みは、まず、年齢と最終学歴などで基準賃金が決まり、そこに、職位給や、資格手当等が上乗せされる方法です。それにプラスして賞与があって、総年収が構成されています。

 年功序列は、毎年少しだけ基本給が上がります。成績優秀者は、ほんの少しだけ周りより昇給率が高くなり、また職位も上がり易くなります。つまり出世が早いです。賞与は、基本給×支給月数×成績で構成されますので、基本給や成績が良い分、賞与(ボーナス)も同期に対して少しだけ多くなります。
このように、毎年ほんの少しだけ同期と年収差が付きます。30歳くらいまでは大して差はないですが、50代くらいには、上位者と下位者でそれなりに差がついてくることになります。
30代前半のエース級の人材が順調に20年頑張って出世頭になれば同期より200万円位年収が多いかもしれません。
それをもって、うちは実力主義とか成果重視だと主張しています。

 終身雇用と年功序列制度の会社側のメリットは、若く優秀な人を低賃金で使うことができるという点と、社員の定着率が高いという点です。社員のメリットとしては、生活が安定し将来設計がしやすい点があります。
終身雇用、年功序列の制度は、社員の平均年齢が若く、年齢構成がピラミッド型だった時代は、うまく機能する仕組みです。
30代で、他の社員の何倍も稼ぐエースでも、同期より月数万上乗せして、「君は将来会社を背負って立つぞ」と褒め称えれば大満足です。
仕事ができない50代でもそれなりの給与と役職を貰えて呑気に暮らせました。

 90年代くらいまでは、市場も右肩上がりで、社員も若手が多く、このシステムは上手くいっていました。
ただ、2000年代に入ってからの建設不況で、市場が縮小し、若手は抜けて、新人は入ってこないという状況、さらに日本社会全体の少子高齢化の促進に合わせて、社員の平均年齢が上がり、現状は、社員の年齢構成も逆ピラミッド状態になってきています。

 こうなると、終身雇用と年功序列のデメリットばかりが噴出してきます。

 第一のデメリットは、生産性の低下と高コスト化です。

 年功序列、終身雇用は、在職年数、年齢が上がるほど、賃金も職位も上がります。
経営管理上、管理職はそんなに必要ありませんが、長年滅私奉公をしてくれた社員に報いるために、本来必要でない役職や、非ライン管理職などが増えていきます。非ラインだけど課長同格、部長同格、わけわかりません。
もう、社内中管理職だらけです。
そうやって、間接コストや人件費総額が増えていきます。
30代前半、普通の社員の何倍も利益をコンスタントに出せるエース級人材が、年収500万円、仕事のできない50代社員が年収800万だったりします。
40代くらいでも若手扱いで、上の世代を養うために働いているような気分になり、数少ない若手のモチベーションは大きく低下します。
同じく、非ライン管理職も、出世競争に敗れた存在として、やる気がなくなった人が多くいます。彼らは今更頑張っても、もう状況が変わらないことを自覚しているので、つらいこと、責任が重い事から、のらりくらりと避けながら暮らす人がいます。
いわゆる古参兵的存在となって要領だけで生きています。
彼らにしてみたら、若手時代の滅私奉公の報酬を今受け取っているので、当然の権利だと考えています。

 こうして、モチベーション低下と間接コストの増大により、生産性は大きく低下し、人件費は高いままという、ダブルパンチです。
このような状況になっても組織が何もできません

それが、年功序列、終身雇用の第二のデメリット、自己改革できない組織になるということです。
年功序列、終身雇用の成績評価というのは、要は先輩が後輩を評価することです。
大企業ほどプロセス評価が大好きで、コンピテンシー評価、KPI等の評価項目が「責任感」とか「協調性」「コミュニケーション」みたいな評価者の主観入る余地満載で、要は先輩の主観的評価が高い人が出世します。必ずしも業務でのエースが出世するとは限らず、社内政治が大きな要素となっています。
そのため、「社内の人間関係命」となって、顔色を窺い、派閥を組んでお互いにかばい合います。ライバルを蹴落としたりします。同僚、仲間を守った人が出世します。

中途採用した中高年の人材は、どれほど優秀であっても、有力なポストに就くことはできません。
また、同年齢の平均年収を超えた報酬額は出せません。
上層部の役職と報酬というのは、滅私奉公のご褒美みたいなものだからです。
こうして、会社の上層部は、社内しか知らず、社内競争を勝ち抜いた人達で構成されてしまいます。
変革をやらない理由、できない理由を探すことにかけては長けた人達です。
もうこうなると、「年功序列と終身雇用の維持」を最大の経営目標とした企業活動しかできません。

株主利益や企業価値の拡大などの経営目標はどこかに吹き飛んでしまいます。
将来の企業の成長のための投資的に活用しなければならない資金は、中高年社員を養うための費用として消えていきます。
こうやって、毎年、ギリギリ黒字、高齢化がジワジワと進む、じり貧会社になっていきます。

 一方の報酬体系で、成果給があります。
自分が出した成果に応じた報酬を受け取る方法で、日本国内でも外資系企業などには多いと思います。
成果給は、導入できる仕事とそうでない仕事があります。個人の能力差が大きく出る仕事、成果が測定できることが条件になります。

 いわゆるプロフェッショナルな仕事は、向いています。
建設コンサルタントというのは、正に成果給に向いている職種だと言えます。
個人間の能力差が大きく、また、理論的には、管理会計的な仕組みがあれば、かなり厳密に個人ごとの成果を計測できるでしょう。
※ここで言うのは、業務利益額だけでなく、顧客満足度、品質(表彰や業務点数)、損失回避等も含んで計測可能です。

 成果給というのは、先ほど、挙げた年功序列、終身雇用のデメリットが生じません。
出した成果に対して報酬を払うだけですので、30代エースが1500万貰って、50代ベテランが400万ということもあり得ます。
出世願望は減少し、同僚や上司の顔色を窺う必要もありません。プロとして成果を出そうという、利益向上に対するモチベーションがあがり、業務をより上手く、効率的にやろうとする意識ができます。
60代になろうが、成果に応じた報酬を貰えるなら、エンジニアとしての能力向上に尽力するようになります。

 会社も出した利益を、成果に応じて配分するだけですので、非常にシンプルで、配分ルールを決めれば、プロセス評価のような人事評価に主観の入る余地は少ないでしょう。
組織がフラット化し、役職や間接コストも最小限になります。
そうして、高収益体質の企業になり、その収益を、会社の成長のために投資していけばこの停滞した時代でも、企業経営に大きな成功を収めることができるでしょう。

 では、自称実力主義ではなく、「本当の成果給の導入が、年功序列、終身雇用の会社に可能か?」ということですが、「ほぼ不可能に近い」と考えています。
本当の成果給というのは、年齢も役職も、プロセス評価という上司や先輩の主観も関係ないものです。それは、年功序列と終身雇用制度を根底から覆すもので、相容れるものではありません。

 個人的に経営コンサルタントとしての経験から、成果給の話をすると、こうした終身雇用、年功序列の企業の社員から、強烈な拒否反応が起こります。
いろんなもっともらしい理由をつけて反対しますが、本音は、とにかく嫌なんです。断固拒否という感じです。
成果を明確に測定し社内公表することすら嫌がります。そんなことしたら、年収500万の若手のエースが、年収800万、50代のベテランの何倍も会社に貢献していることが明白になります。
年功序列の根底が崩れていく危険を孕んでいます。
住宅ローンにしろ、子供の学費にしても、人生設計が年功序列、終身雇用を前提に考えられているので、反対するのも分からないでもないです。

 若い時代の滅私奉公の報酬を、受け取っている(これから受け取る)世代が反対するのは、分かりますが、意外にも若手の世代も反発します。
現在の新卒の人気の就職先は、公務員、インフラ系(電力、鉄道会社など)企業、有名な大企業などです。若者も大部分が安定志向で、年功序列と終身雇用の企業が人気なのです。
終身雇用と年功序列は、もはや老いも若きも含めた大多数の総意であり、日本の伝統的価値観と言えるでしょう。
みんな大企業の正社員になりたがるわけです。

 近年、日本企業の中でも世界的企業で、早期定年制の導入の話が聞かれます。

こちらの記事もどうぞ「48歳定年の話(日本のリストラ考)」

このような意思決定は、国際競争にさらされて企業の存続が危うくなって初めて可能となります。
海外企業との競争のない、国内市場、公的機関関連が大部分の業界、公務員、インフラ系、ゼネコン、建設コンサルタント業界などでは、最後の最後まで終身雇用、年功序列は残っていくでしょう。少なくとも、建設コンサルタント業界で、年功序列、終身雇用を廃止しないと経営の存続が怪しくなるような状況は、今後、数十年考えにくいと思います。

 日本社会は法制度の上でも企業が、正社員を会社が一生面倒みなければならない仕組みになっています。今後、年功序列体制を維持したまま、定年廃止、70代まで雇用となれば、経営幹部は70代、管理職は60代後半、50代は、まだまだ若手の時代が来ますね。
人生長いので、まだまだ頑張らないといけません。

 70代まで働く時代というのは、50歳でサラリーマン人生の折り返し地点な訳ですから、まだまだ新たな挑戦もできるということです。

こちらの記事もどうぞ「大手建設コンサルタントの40代、50代の中途採用が増えてきた件」

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